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翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『ハーレムの闘う本屋 ルイス・ミショーの生涯』

新刊・訳書紹介

 今朝のTBSラジオで紹介していただいた新刊です。山縣裕一郎さんが、この本に書かれているミショーさんの志を、丁寧に紹介してくださり、とても嬉しかったです。

 書店にならぶのは来週から。ぜひ、手にとって、見て、読んでください。

ハーレムの闘う本屋: ルイス・ミショーの生涯

ハーレムの闘う本屋: ルイス・ミショーの生涯

  • 作者: ヴォーンダ・ミショー・ネルソン,R・グレゴリー・クリスティ,原田勝
  • 出版社/メーカー: あすなろ書房
  • 発売日: 2015/02/25
  • メディア: 単行本
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 この本は、ニューヨークの黒人地区ハーレムで、全米一の黒人専門書店を作ったルイス・ミショーという人のドキュメンタリー・ノベルです。周囲の人(架空の人も含む)たちの証言を集めた形で多角的にミショーさんの人生を再現し、写真や挿絵もたくさん入っています。もともとはヤングアダルト向けの作品ですが、大人が読んでも読み応え十分。

 わたしが書いた推薦文を、以下に引用します。

 

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「本屋、かくあるべし」

  表紙のインパクトが半端ない。黄色い地に赤い絵の具でラフに描かれた顔、頭の上にそびえる摩天楼……アメリカの書評誌の新刊紹介の欄に載った表紙写真を見た時、「とにかく手にとって、中を見てみたい」と思った。そして、その期待は裏切られなかった。1930年代から1980年近くまで、ニューヨークのハーレムで黒人専門書店を営んだルイス・ミショーの生涯を、本人や周囲の人々の語りと、新聞や雑誌の記事、果てはFBIの書類まで引用して再構成した、一風変わった形式の「ドキュメンタリー・ノベル」である。実在の人物の一生を描いた作品でありながら、2012年のボストングローブ=ホーンブック賞を小説部門で受賞したことでもわかるように、従来の伝記の枠を超えた力作だ。

 ミショーが黒人の権利を勝ち取るための闘いにおいて陰で果たした役割や、マルコムXを物心両面で支えたという事実も感慨深いものがあるが、なにより、このミショーという男の波乱万丈の一代記そのものがたまらなくおもしろい。白人への反発心を胸に、幼い頃から盗みを繰り返し、賭場を開いたはいいが、警察の手入れで片目を失い、高名な説教師となっていた兄のもとで教会の仕事を手伝い、兄から紹介された信者と結婚するものの、一念発起して、ニューヨークの黒人地区ハーレムで書店を開業したのが44歳の時。すぐにつぶれるだろうという周囲の予想を裏切り、ミショーは「ナショナル・メモリアル・アフリカン・ブックストア」を全米一の黒人専門書店と言われるまでにする。残念ながら、この書店は、州政府庁舎を建設するための用地買収によって移動を余儀なくされ、やがて廃業に追いこまれてしまうのだが、ミショーのファイティング・スピリットは、この作品に見事に再現され、後世に残るものとなったと言えよう。ちなみに、作者はミショーの弟の孫にあたる。

 しかし、この作品は、人種差別と闘ったアメリカ黒人の生涯を描くだけに終わらず、書店のあり方を示している点で、本に関わる仕事をしている者の琴線に触れてくる。「知識こそ力」という信念のもと、ろくに学校にも通っていないミショーが開いた本屋が、やがては名だたる作家や学者、活動家、政治家までをも魅了する店となったという事実は、なんと痛快なことか。父親とともに来店した黒人少年の手を見て、「きみは医者になるといい」と言ったミショーの言葉は時が流れて実現し、学校をドロップアウトした少年が、ミショーにさりげなく勧められたヒューズやダンバーの詩を読みふける。これこそが、バーチャル書店にはない、リアル書店の存在意義ではないだろうか。

 読み手の住む町で営業し、人々に必要な本を徹底的に集め、自らその本を読み、客に勧め、店の中で読ませてやり、集まった人々の議論に耳を傾け、店頭では脚立に乗った論客が熱弁をふるう……。そう、この作品は、まぎれもなく、理想の本屋の物語なのだ。

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 どうです。面白そうでしょう? (M.H.)