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翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

コラム再録「原田勝の部屋」 《インタビュー》第3回 後半 ── 東京創元社編集部 小林甘奈さん・宮澤正之さん

 東京創元社は、ヤングアダルト作品も出版してくれていますが、英米ではYAとして出ていても、中身がSFやファンタジー、ホラー、などであれば、一般向けとして出すこともあります。

フランケンシュタイン家の双子 (創元推理文庫)

フランケンシュタイン家の亡霊 (創元推理文庫)

 拙訳のこの連作もそう。もとはカナダの作家、ケネス・オッペルのYAものです。表紙がいいですよねえ。浅野隆広さんの絵です。時代小説の表紙をたくさん描いていらっしゃいますが、これもいいですね。

 この2作は、メアリー・シェリーの元祖『フランケンシュタイン』が東京創元社から出ているので、企画をもちこみ、出版に至りました。今回のインタビュー後半では、もちこみ企画のとりあつかいについても触れています。

 

 では、どうぞ。

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《インタビュー》第3回 後半

 ── 東京創元社編集部 小林甘奈さん ・宮澤正之さん

(2009年4月6日掲載記事 再録)

 

 インタビュー前半では、創元推理文庫創刊50周年にまつわる話、翻訳の寿命のことなどをお送りしました。後半は、ミステリ・SFの翻訳に求められる資質、新しい翻訳者の発掘のことなどを中心にうかがっています。

 全体を通して、ファンの期待に応えたいという編集姿勢が強く印象に残るインタビューでした。では、どうぞ。

 

ミステリ・SFの翻訳に求められる資質

原田:ミステリやSF担当の編集者さんたちは、皆さん、それぞれのジャンルに対する知識は相当豊富なわけですよね。

宮澤:ええ、まあ。作者や読者のことを考えると、こちらも一定の量を読みこんでいないと、作品の評価ができませんから。作品の勘所はどこか、この作品は斬新なのか、それとも似たような作品が過去にあったのか、パターンは古典的だけど切り口が新しいんじゃないか、とかそういうところですね。

原田:翻訳者にも同様の知識が求められると思うんですが、どうでしょう?

宮澤:ミステリに限って言えば、トリビアルな知識の豊富さよりは、いかに「ミステリとして適切な訳」ができるかが大事だと思います。伏線を伏線としてきちんと訳せるかどうか、といったことですね。小説としての適訳と、ミステリとしての適訳は必ずしもイコールではないと思うんです。ここは読者に印象づけるよう丁寧に言葉を拾って訳してほしい、だけどこっちは気づかれぬようさらっと流してほしい、とか。ミステリとしての文脈をつかんで訳す、と言いますか……。

小林:SFなどの場合は独特の訳語があったりして、それを知らないと難しい場合があります。過去の作品群で踏襲されてきた用語があったりするので、ミステリとはまた違った難しさがあると思います。

宮澤:ミステリはほとんどの作品が現実世界を舞台にしているので、例えば、警察官の階級などは、一般的な名称とあまりに異なる訳語にされると困りますね。

原田:それは編集者としてチェックするんですか?

宮澤:チェックします。違ってると困りますから。やってることは同じでも、カトリックとプロテスタントでは呼称が違ったりしますよね。「聖歌」と「賛美歌」とか。

原田:なんか、心配になってきたな(笑)。

宮澤:でも、そういうものはこちらでも直せますから、まだいいんです。むしろ、訳者さんの裁量で決めてもらう部分で、ミステリ作品としての適切な訳ができるか、そちらの方が大事でしょう。そのあたりは、こう訳してくださいと説明できるものではないので。

斎藤:伏線が伏線になっているか、というのは、原書の表現をきちんと読みとっていれば大丈夫なはずですよね? 原文そのものがそうなっているんですから。

宮澤:いえ、必ずしも原文どおりに訳せばいいというものでもなくて……中には原書に矛盾があって、これじゃあ伏線になってないよ、ということもありますから(笑)。そういう場合は別にしても、ひと通り訳してみてから、読み返して不備に気づくことも多いようです。もうちょっと強調しておく必要があるな、とか。

斎藤:なんか、怖いですね。わたしはミステリ、好きなんですけど、今のような話をうかがうと、自分で訳すのは大変そう。

小林:そもそも原作段階でまちがえてしまっている場合は、こちらでどこまで辻褄合わせしていいのか考えてしまいますね。日付や時刻のまちがいとか、結構あるんですよ。

斎藤:それは最近の作家さんだから? それとも、昔から?

小林・宮澤:(声をそろえて)昔からです!(笑)

宮澤:昔の本ですと、原書のとおり訳して「原書にはこうあるが、おそらく○○のまちがい」なんて注釈がはいってましたね。今はホームページをもっている著者も多いので、確認を取るのが容易になったこともあり、矛盾点の大半は直してしまいます。

 

リーディングと訳者の選定

原田:訳者はどうやって選ぶんでしょう。リーディングしてもらった人に翻訳してもらう、というパターンが多いんでしょうか?

宮澤:そうですね。エージェントから原書が回ってきた段階で、例えば、これは歴史もののミステリだからあの人に読んでもらおう、これは作者が女性で内容も女性向けらしいので、女性のリーダーさんにお願いしようとか、そういう大まかなふりわけをします。

原田:リーディング専門でお願いしている方はいるんですか?

宮澤:今のところリーディングだけという方は、わたしの担当ですと七、八名ですね。そういう人たちも、よそではすでに訳書を出していらっしゃったりして、いずれはうちでも翻訳をお願いしたいと思っている方々です。

小林:わたしもリーディングだけお願いしている方はいます。

原田:リーディングは、一冊の本を複数の方に読んでもらうんですか?

宮澤:基本的には一人のリーダーに読んでもらうだけですね。その人の判断とわたしの判断で企画にするかどうか決めます。ですから、リーディングを依頼する時から、いい作品だったらこの人に翻訳もお願いしよう、という気持ちでいます。ただ、レジュメの一部が引っかかるので、本当にそうなのか、別の人に読んでもらう、ということはありますが。

 

「もちこみ」はできますか?

原田:このコラムの読者に代わってお尋ねしますが、新たに東京創元社でリーディングや翻訳の仕事をしたいと考えている人は、どうすればいいでしょうか?

宮澤:翻訳した原稿をもちこまれても検討する時間がありませんが、「原書とレジュメ」という形であれば検討できると思います。レジュメを読めば、その人の翻訳力もある程度は判断できますし。レジュメの出来がよければ、たとえその企画自体は通らなくても、こちらから別のリーディングをお願いすることはありえます。そして、いずれは翻訳を、という流れですね。実績のある翻訳者は、やはりしっかりしたレジュメが書けますよ。

小林:レジュメに短い試訳をつけてくださる方もいらっしゃいます。もちろん原稿料はお支払いできませんが、初めてお願いする場合などは、それも判断材料になると思います。こちらからリーディングをお願いする場合には、試訳はお願いしていませんが。

宮澤:レジュメは、きちんと原書の内容を読みとって咀嚼し、さらにまとめ直すという作業の産物ですから、その人の実力が出るんですよ。レジュメの文章が乱れていると、これはちょっと、と思いますし。また、登場人物表を作ってもらうことが多いんですが、そうすると、人物の重要度を把握できているかで読む力がわかりますね。レジュメは原書の判断材料であると同時に、リーダーさんを判断する材料でもあるんです。

原田:宮澤さんが原書を読んでいなくても、レジュメを書いた人の力はわかりますか?

宮澤:だいたいは。例えば、あらすじに犯行動機を書いてくれてないとか、重要そうに思える登場人物が途中で出てこなくなってそれっきりとかは、明らかにおかしいですよね。ミステリの場合、小説としての面白さと同時に、ミステリとしての評価もするので、実際には、そういう疑問点について、必ずリーダーさんと直接やりとりして確認するんです。

原田:先ほども出ましたが、やはりミステリとしてどうか、という評価が大切なんですね。

 

翻訳そのものがシリーズの味になる

原田:ミステリでは、よく同じ登場人物が活躍するシリーズものがありますが、基本的には訳者を変えませんよね?

宮澤:そうですね。ただ、もとの訳者が亡くなられて、別の方に引き継いでもらっているシリーズもあって、新しい訳者には、雰囲気を変えないようにと頼んでいます。

斎藤:それは、相当実力がないと難しいでしょう? 別の訳者のまねをしなければならないんですから。

宮澤:いや、まねとはまた違うと思います。登場人物のキャラクターなどを変えないように、しゃべり方とか、使う言葉とか、要所を押さえるだけでかなり雰囲気は出せますから。

原田:裏を返せば、じつは翻訳がそのシリーズの味を決めている場合がある、ということですね。

小林:そうですね。同じ原文でも、訳者によって日本語の印象が変わりますから、原書の雰囲気を適確に反映しつつ、シリーズとしても一貫性を出していただけるといいですね。ただ、同じ訳者の方でも、翻訳のあいだがあくと登場人物のキャラクターが変わってしまうこともありますね。そういうところを読者はよく見ていて、気づかれてしまうんです。

 

宮澤さん一押しの、今年出る翻訳ミステリは?

原田:それでは、最後に、今年一押しの宮澤さん担当、翻訳ミステリを一冊、ご紹介いただけませんか?

宮澤:2007年度のCWA(英国推理作家協会)ヒストリカル・ダガー賞をとった、本邦初紹介の女流作家、アリアナ・フランクリン(Ariana Franklin)の“Mistress of the Art of Death”(仮題『死者と語らう女』)ですね。訳者は吉澤康子さんです。12世紀のイングランドで起きた連続殺人を解決するべく、イタリア人の女医さんが助手とともに招かれて活躍する物語です。背景にユダヤ人差別や十字軍などもからんでくる、読みごたえ充分の作品です。夏には刊行したいですね。

 (タイトルは、最終的には『エルサレムから来た悪魔』になっています。)

エルサレムから来た悪魔 上 (創元推理文庫)

エルサレムから来た悪魔 上 (創元推理文庫)

 

 

エルサレムから来た悪魔 下 (創元推理文庫)

エルサレムから来た悪魔 下 (創元推理文庫)

 

 

斎藤:とっても面白そうですねえ。楽しみにしています。

小林:ファンタジーやYA、SFやホラーも忘れないでくださいね。

原田:ええ。とくにわたしはそこが守備範囲ですし、英米ではYA対象でも、日本では一般向けで出せるものも多いですから、そういう作品は、東京創元社が拾ってくれているので、今後もぜひお願いしたいですね。

 今日は長時間、ありがとうございました。

(M.H.)

(この対談は、2009年2月18日、新宿区新小川町の (株)東京創元社内で行ないました。)