5月18日(月)に、奇数月に開いている「古典翻訳児童書を楽しむ会」がありました。5月の課題本は『ドリトル先生 アフリカゆき』(ヒュー・ロフティング作、井伏鱒二訳)。
今回読んでみても、子どものころに読んだ記憶は蘇ってきませんでした。でも、ドリトル先生をまったく読んでいないということは考えにくく、たぶん、『ドリトル先生 航海記』を読んだのではないかと思います。でも、「アフリカゆき」が最初の作品なんですね。
荒唐無稽な話のようでいて、ドリトル先生の行動の裏にある博愛精神というか、弱い者への共感というか、そういうものが、この話を支えているように思います。第一次大戦中に、ロフティングが戦場で自分の子どものために書いたそうですが、彼自身の精神安定剤の役目も果たしていたのではないか、という意見も出ました。小学校中〜高学年の読み物として、自信をもって子どもたちに勧められる、とおっしゃる出席者が多かったのが印象的でした。
翻訳という視点で見ると、この本に注目して日本で出版しようとしたのが石井桃子さんであり、その石井さんが井伏鱒二さんに翻訳を頼むのですが、いっこうに翻訳が進まないので、石井さんが下訳をし、井伏さんが手を入れて、石井さんの作った出版社から出たのが、第二次大戦の直前、昭和16年のことだそうです。
井伏さんの訳は、リズミカルで、ほのぼのとしたドリトル先生の人柄や作品の空気感を絶妙に表わしている、というのがこの日のみなさんの見方でした。少し古くなってしまった言い回しがあるのですが、それでも、この訳で今の子どもたちにも読んでもらいたい、という意見が出ました。わたしもそう思います。
しかし、我々大人にも馴染みがなくなってしまった表現は直したほうがいいのではないでしょうか。全体のトーンを生かし、使われなくなった表現を改めるのです。ただ、黒人の扱いなどに差別的な部分が多くあるので、井伏鱒二訳、ということで、その批判をかいくぐっている面もなきにしもあらず。そこは悩ましいところです。
新訳には、角川つばさ文庫で出ている『ドリトル先生アフリカへ行く』(河合祥一郎訳)があります。河合さんは、シェイクスピアの訳も手がけている方ですが、この日、つばさ文庫版をぱらぱらと読ませてもらったかぎりでは、わかりやすく、くせのない翻訳だと思いました。今の子どもたちには、こちらのほうが読みやすいかもしれません。
- 作者: ヒュー・ロフティング,patty,河合 祥一郎
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でも、絵がいけない。いわゆるアニメ風の絵なのですが、せっかく、ロフティングの絵があるのに、なぜ、と思わざるを得ません。つばさ文庫は、どの作品でも、こうしたアニメ風の挿絵をつけているようですが、うーん、どうにも違和感があります。
挿絵について言うと、「アフリカゆき」のドリトル先生は、汚い(失礼!)おじさんっぽくて、あの、丸みを帯びた、ちょっと可愛いドリトル先生ではありませんでした。「航海記」以降のさしえのイメージが流布しているようです。
読書会の会場は、川越の絵本カフェ、イングリッシュブルーベル(Ehon Cafe - English Bluebell -)。
ちょうど、バラ(サマースノー)が満開でした。
7月の課題本は、ケストナーの『飛ぶ教室』です。(M.H.)