翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

トウモロコシと麦

 先日、わたしが主宰する翻訳勉強会の初回があり、自分が訳した『ウェストール短編集 真夜中の電話』の中から、『ビルが「見た」もの』という短編を教材にとりあげました。ところが、出だしでわたしのミスが発覚。

真夜中の電話 (児童書)

真夜中の電話 (児童書)

 

 

  この短編の中に、「トウモロコシ畑」という訳語が6回出てくるのですが、すべて「麦畑」の誤りでした。本来は、収穫を前にした黄金色の麦畑なのに、これでは読者は、青々としたトウモロコシ畑を思い浮かべてしまいます。

 ほんとうに申し訳ありませんでした。

 増刷がかかったら訂正してもらいますが、今、書店にならんでいるものは誤訳のままです。すでにお買上の皆さんも、どうか麦畑を想像してお読みください。スミマセン。

 なぜ、こんなミスをしてしまったのかというと、原文は cornfield なのですが、イギリスでは corn が麦をさすことを失念していたからです。正確には、その地域の主要穀物をさすので、イングランドでは小麦(wheat)を、スコットランドやアイルランドではからす麦(oats)のことになります。アメリカやカナダ、オーストラリアやニュージーランドではトウモロコシ(Indian corn)のことです。

 イングランドの田園風景の写真でトウモロコシ畑なんて見たことありませんよね。でも、頭の中では、日本での「コーン」のイメージ、つまり、缶詰の粒コーンや、焼きトウモロコシのあの鮮やかな黄色がぱっと頭に浮かんできます。物語の中では、登場人物の金髪が、畑の中では目立たない、といったくだりがあるのですが、トウモロコシ畑なら緑色のはずで、そんな髪の毛はありません。でも、わたしの頭には黄色が浮かんでいたわけです。

 しかし、6か所も出てくるのに、どこかで気づくべきでした。ほんとうに申し訳ない。勉強会では、「違和感を感じたら見直そう」と自分で言っておきながら、ああ、なんということでしょう。夢に見そうです。

 

 ショックを受けて、家で今とりかかっている本の自分の訳文を読み返していたら、出てきましたよ、「トウモロコシ畑」。しかも作者はイギリス人。すわ、と思いましたが、でも舞台はネパール。むむ……。原文を確かめたら、a field of maize でした。ああ、これはトウモロコシ畑でいいんだ。

 

 とにかく、気を引き締めて仕事に取り組みます。

(M.H.)