翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

文学部は必要か?

 先日の柏でのトークの質問コーナーで、「文学部は必要だと思いますか?」という質問を受けました。質問した方はたぶん、本好きの人が集まっている場で、本や本屋さんの話を聞いているうちに、こういう質問を思いつかれたのだと思います。

戦争と平和〈1〉 (新潮文庫)

戦争と平和〈1〉 (新潮文庫)

 

   もちろん、最近の政府の実学重視という名のもとに、人文系の学部学科を統廃合しようという動きを受けてのことでしょう。

 

 なんと答えたかと言いますと、「文学部が必要かどうかはよくわかりません。でも、高校生の時に本が好きで、文学部に入りたいと思う人たちが行く場所として残してほしい」というようなことを答えました。

 

 塾で教えている高校生たちは、ほとんど文学部を志望しません。たまに文学部志望と聞くとうれしくなるのですが、よくきいてみると、文学部の中の社会学科や心理学科だったりします。本当に文学をやりたい高校生は少なくなったのでしょう。少なくなった、というよりも、昔より学部学科が多様化して、その他の選択肢が増えたといったほうがいい。昔だって、真剣に文学を研究したいから文学部に入った学生はそれほど多くなかったはずです。ほかにやりたいことがなくて、経済や法律をしゃかりきに勉強するなんて格好悪いぜ、と斜に構えていた連中も多かったと思います。

 でも、今もいるはずなんですよ。本にはまっている高校生や、斜に構えている高校生は。そんな連中が、実学をやれ、とお上から言われても、ふん、言われた通りになんかするもんか、と言って入る学部として文学部が必要じゃないかと思うわけです。そうして、入学した文学部で、たいていは、現実を知って「まっとうな」社会人になっていくのでしょう。でも、かったるくて文学概論の授業なんか出ていられないや、と思いながらも好きな作家の本だけは読み、あるいは、ジャンル小説にはまり、外国文学に目覚める学生が一握りでもいればいいと思うのです。いや、映画を見たり作ったり、新聞を作ったり、演劇にはまったりしてもいいのです。

 

 上にあげた本、新潮文庫の『戦争と平和』は、わたしが高校生の時に読んでいたのと同じ表紙、同じ訳者のものが今も手に入るようです。大好きで、全4巻あるこの大作を3回読みました。大学に入ってからはいいかげんな学生でしたが、少なくとも、高3の時に文学部や外国語学部を目指した気持ちは純粋だったと思うのです。

 だから、文学部でなにをやるかはよく知らないんですが、文学部は必要だと思うのです。こんなこと言っても、文科省の人は呆れるだけでしょうが……。

(M.H.)