翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

エベレスト

 映画『エベレスト3D』、翻訳中の作品の参考にするためもあり、見てきました。

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  3D映画は初めて見たのですが、思ったほど目も疲れず、楽しめました。

  この映画は1996年に実際にあったエベレストでの遭難事故の再現映画です。映像が素晴らしい。どうやって撮ったのか? どこまで実写なのか? 

 映画の登山隊がたどったのは、エベレストの南側から登る一番ポピュラーな南東稜ルートです。じつは、拙訳で来春小学館より刊行予定の山岳YA小説(原題『Everest Files』)の主人公たちとまったく同じルートをたどるので、今までいろいろ調べながら翻訳し、頭の中に作っていた映像が、ほとんどすべてこの映画で確認できました。カトマンズ、ルクラ、ナムチェバザール、ベースキャンプ、アイスフォール、ローツェフェイス、サウスコル、南峰、ヒラリーステップ、山頂、全部確認できました。そして、つり橋を渡るヤクやクレバスにかかるはしご、固定ロープ、カラビナ、アイスアックス、酸素ボンベ、凍傷、食堂用テント、シェルパ、女性ジャーナリスト……、翻訳中の作品に出てきたものが網羅されていました。わたしのための映画みたい(笑)。

 この映画は、1996年5月10日にエベレストを襲った凄まじい暴風雪で、多くの人が命を落とした事件を描いていますが、単なる経緯の再現ではなく、家に残してきた家族とのやりとりや、登山家同士の意地の張り合い、無理をしてまで登頂したいという欲求、思いやり、助け合い、冷徹な判断など、人間ドラマがしっかりと描けているところがすばらしい。いい映画です。起きたことは悲劇ですが……。

 

 

 翻訳中のYA小説『Everest Files』の原作者、マット・ディキンソンはイギリスの映像作家であり小説家でもありますが、彼はじつはこの映画の悲劇が起きたわずか9日後に、北壁ルートからエベレスト登頂に成功しています。『Everest Files』は、映画『エベレスト3D』同様、世界最高峰に挑む人々の心理を描き、現代の商業登山の問題点をえぐっている点で共通していますが、特徴的なのはシェルパの少年が主人公であること。高地に暮らすシェルパ族の人々と海外からやってくる登山隊との関係がよく描かれています。ネパールのこうした登山の産業化という事情を背景に、若い主人公の希望や葛藤が描かれた佳作です。もちろん、作者自身の登攀体験を生かした迫真の描写も楽しめます。

 この作品の情報は、またおいおい紹介していきますので、ご期待ください。

 これが原作の書影。

The Everest Files

(M.H.)  

 

追記

 映画のエンドロールを見ていたら、脚本がウィリアム・ニコルソンとありました。ん? どこかで聞いた名前だと思ったら、この人、『グラディエーター』の脚本などでも有名ですが、じつはファンタジー小説も書いてるんですよね。『The Wind of Fire』という三部作です。レジュメ書いてもちこんだことあります。リーディングノートをチェックしたら、三冊とも読んでますね。どんな話だったか覚えてませんけど、これ、どこかで日本語訳が出たんでしたっけ?