月曜日は第4回目の翻訳勉強会でした。
また、話題になったことのひとつを以下に記録しておきます。
「wizard は魔法使いか?」
この日の勉強会で話題になったのは、英語の単語の基本的な語義をどこまで訳語に生かすか、ということでした。
近所の人が、目が見えないのに(見えないからこそ)天気を予想する主人公のビルにむかってこう言います。
"Eeh, Bill, you're a wizard, a proper weather-wizard."
わたしはこの部分を、
「すごいわ、ビル。魔法使いみたい。ほんとうにお天気がわかるんですもの。」
と訳しました。
wizard は weather-wizard のように使っている場合は、「〜の名人、達人、凄腕」といった意味で、ここでは「天気予報の達人」とでもいう意味になるのでしょう。ですが、目が見えないビルが天気まで言い当てるのは、まるで魔法使いのようだ、という意味もあると思います。
ただし、訳文でもそのまま「魔法使い」という言葉を使うべきなのでしょうか。わたしは使いましたが、二度使うとくどいので、二度目はくだいています。当番だった参加者のMさんは「ビルの予報は確かで外れることがないから助かるわ」としていました。
こういう訳し方もありだと思います。どちらかというとわたしは、原文にある英単語の基本的な意味(つまりここでは「魔法使い」)を日本語にも生かしたい、と考えることが多いように思います。ネイティヴはやはり、この英文では、「魔法使い」を思いうかべるのではないかと思うからです。まあ、すべては程度問題なのですが。
もう一箇所、ダックスフントの体の動きを描写した場面で、こんな表現がありました。
Mamie wriggled her serpentine smooth-haired body under his hands, . . .
わたしはこの部分を
メイミーはビルの手の下で、なめらかな毛皮に包まれた蛇のように長い体をくねらせ、
としたのですが、参加者のKさんは、「メイミーはなめらかな毛に包まれた細い身体をくねらせて、」としています。ほかにも、「蛇」という言葉のもつ悪いイメージを避けたい、という方がいました。
そうですね、蛇にはいろいろなイメージがあります。わたしは、悪いイメージだけでなく、なまめかしさや美しさもあると思うのですが……。こうなると、訳者のもつ感性と、作品におけるその言葉が喚起するイメージの必要性(「蛇」という生き物のイメージがここでは必要なのか、それとも、くねらせていることや身体が長いことが伝わればいいのか、それとも、それを読者にゆだねるためにも「蛇」という語が必要なのか、等々)を考え、最後は訳者が決めることになるのだと思います。
ひとりよがりはよくありませんが、ここを決めていくのが翻訳の楽しみのひとつとも言えます。だれかに意見を聞き、それから決めるというのもいいかもしれませんが、やはり決めるのは訳者です。
とまあ、こんな話で、この日もあっという間の2時間でした。
(M.H.)