商品名は悩ましい。
ゲラチェック中の『The Everest Files』には、当然のごとく登山で携行する保温水筒がしばしば登場します。原文は「flask」となっているのですが、「フラスコ」と訳すと、理科室のガラス容器を思い出すか、あるいは、よくジーンズの尻のポケットからカウボーイが取り出してウィスキーをあおる、あのうすべったい金属製の容器を思い出すかどちらかでしょう。
でも、原作者はイギリス人で、thermos flask という意味で flask を使っています。で、この thermos は、もとドイツのメーカーで、「テルモス」というのですが、真空魔法瓶を最初に作ったメーカーであり、ブランド名でもあります。で、この thermos は、英語読みすると「サーモス」です。今はこの会社は、日本の太陽日酸という会社の傘下にはいっていて、サーモスというのは、その会社名であり、また商品名でもあるようです。
山と渓谷社の『実用登山用データブック』によれば、
テルモス【THERMOS(独)】サーモス。携行できる金属製魔法瓶のこと。保温性のある水筒。"THERMOS"は魔法瓶を製造しているドイツのメーカー名。
となっています。えーと、っていうことは、結局「テルモス」なの? 「サーモス」なの? それとも、作者のいう「flask」は普通名詞だから、もしかしたらタイガーとか、象印の同等製品なの?
なぜこんなことを考えるかというと、おそらく、登山をする人たちの会話では、「テルモス」もしくは「サーモス」と言うと思うからです。ほぼ、普通名詞化していると思います。主人公たちはエベレストに登ってるんですから、日本の登山者たちが使うような言葉を使わせたいじゃないですか。で、どうやら、日本では、ちょっと年配の人は最初に日本に入ってきた時の「テルモス」になじんでいるようです。わたしも、別に登山をしていたわけではありませんが、一般に、保温性の高い水筒のことを「テルモス」というのだと認識していました。でも、今では、「サーモス」という会社が「サーモス」という商品名で売っているので、「サーモス」という人が多いようにも思います。
でも、商品名は原作に出てないしなあ。サーモスから広告料もらうわけじゃなし。うーん、悩ましい。説明的に言えば、「保温水筒」とか「携帯用魔法瓶」ですね。しかし、これを会話で使えるか?
「おい、そこの保温水筒とってくれ」(実験室っぽい)
「おい、そこの水筒とってくれ」(中身が水っぽい)
「おい、そこの携帯用魔法瓶とってくれ」(漢字が多いし長いし)
「おい、そこの魔法瓶とってくれ」(なんか昭和っぽくないか?)
うーん、魔法瓶が無難かなあ……。でも、じっと見てると「魔法」が気になるんだよなあ。たしかに魔法みたいな保温力だけど、魔法じゃないし……。
よし、漢字とカナで調節しよう。「まほうびん」、「まほうビン」、「まほう瓶」、「マホービン」……。
考えすぎのような気がしてきた。「魔法びん」にするかな。
あ、ちなみに、上の写真は、愛用のタイガー製「サハラ」です(笑)。
(M.H.)