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翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

アマダブラム

翻訳の周辺 新刊・訳書紹介

 再校ゲラのチェックを終えました。錦織にも、サッカーU23にも負けずに、仕事やりましたよ(笑)。

『エベレスト・ファイル シェルパたちの山(仮)』は小学館より、3月16日刊行予定です。原作は、以前も紹介したように、"The Everest Files"という、イギリスの作家・映像作家でエベレスト登頂経験もあるマット・ディキンソンが書いたYA山岳小説。

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 今日のタイトル、「アマダブラム」という呪文みたいな言葉は、この写真の山の名前です。エベレストの南にある6000m級の山です。再校ゲラには、章の頭にカットが一部入っていたのですが、第1章のカットが、たぶん、これ、アマダブラムのイラストです。特徴のある形ですよね。作者は、「衛兵のよう」と描写していました。なんだかんだで、一年近くつきあってきた作品なので、ちょっと、エベレスト周辺には詳しくなりました。いや、まちがってるかもしれませんが、たぶん、この山だと思います。

 イラストは、まだ全部入っていないので、この先、どんなものが入るのかとても楽しみ。表紙のデザインもまだ見ていないので、これからひと月くらいは、わが家のパソコン画面で格闘していた文字列から、イラストや表紙が描きおこされ、物としての書物に立ち上がっていく、不思議で楽しい時間です。そして、それが書店にならぶのを見るのが、まあ、翻訳者の大きな喜びのひとつですね。

 

 もう、自分の原稿を読むのはいいかげん飽きてきてるんですが、それでも、ほとんど最後の直しなので、早すぎず、遅すぎず、というスピードを心がけて読みました。ストーリーはわかっているので、早く読もうと思えば読めてしまうのですが、そうすると、チェックの意味がありません。かといって、あまり、ゆっくり読んでいると、離れたところの表現の食い違いに気づかなかったりするので、適度な速度と集中で読まなければなりません。でも、これがむずかしい。気がつくと、ぼうっとしたまま1ページ読んでたりしますからね。

 今回、困ったのが、「一頭」か「一匹」か。なんとなく、馬や牛、ライオンや象など、大きな動物は「頭」のほうがいいというのはわかるのですが、じゃ、大きな動物の子どもはどっちがいいんでしょう。そして、それを口に出して言ってるのが13歳の女の子だったらどうするか、地の文だとどうするか、ということ。

 もうひとつ、迷ったのが、「病院」か「診療所」か、でした。一般的に医者がいて、診察してもらう場所、という広い意味では、規模にかかわらず「病院」ですよね。「ひどい風邪だね。病院行ってこいよ」とは言いますが、こういう時に、「診療所行ってこいよ」というのは、妙にピンポイントな感じで変です。でも、それが、ネパールの高所の村にある場合、つまり、小規模な病院は「診療所」といったほうがイメージが浮かぶだろうと思うわけです。でも、登場人物はそこに入院しているようなのです。日本の「診療所」は入院できません。と、思って調べていたら、「有床診療所」という入院できる診療所もあるらしい。英語では、clinic と hospital が、ちゃんぽんで使われていて統一されていません。clinic は、英語では大病院の外来をさしているケースもあり、大病院が clinic と名乗ってることもあって……。ああ、面倒くさい。

 

 とまあ、あれこれ悩みながらも、二回読み直ししました。うん、いい作品だなあ、と思いながら……。

 タイトルどおり、シェルパの少年が主人公です。山岳小説です。YAです。この少年が、とても素直ないいやつで、読者はだれでも、絶対にこいつのことが好きになります。お楽しみに。

The Everest Files

(M.H.)