翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

いじるとよくなる時期

 先月末、予定通り、夏のメンフィスが舞台の小説の通し訳を終えて、編集さんに送りました。すでに、気になるところに赤が入ってもどってきています。赤といっても、ワードのコメント機能やハイライトですが。

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 じつは、この、最初の通し訳の原稿を出す前や、初稿のゲラのチェックは、すごく楽しい工程です。二稿、三稿と、大きな直しが減って、何度も読み直す工程に入ると、「ああ〜、もうこの話知ってるし〜」と、ややうんざり感があるのですが、通し訳に一度目、二度目の手を入れているあたりだと、まだ作品への新鮮味も薄れてないし、訳文はいじればいじるほど粒立ってよくなっていく段階で、あっちの布石がこっちで効いてくるとか、はまるべきところにはまって作品が立ち上がってくる感じがたまりません。

    一文ずつ訳している時は見落としていた隣の段落との微妙な関係や、作品全体を通してのキャラクターの変化や成長などが読みとれて、その微調整をしていくわけですが、これがおもしろい。

 

「ああ、あきらめないでもちこんでよかったなあ」とか、「これ売れるでしょ。良さがわからない人の目は節穴でしょ」、「いいじゃん、おれの翻訳」とか、いろいろな感情がこみあげてくるのです。自分の訳文に酔ってるのはちょっとアブない感じもしますが……。

 

 勘違いと紙一重かもしれないけれど、翻訳の醍醐味のひとつです。

(M.H.)