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翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『圏外編集者』(都築響一 語り、朝日出版社)

 都築響一さんの『圏外編集者』を読みました。おもしろかった。

圏外編集者

圏外編集者

 

 

  雑誌『POPEYE』、『BRUTUS』の編集にフリーの編集者として携わり、その後も独創的な本や写真集を出しつづけている都築さん。以前、このブログでも、『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』という本を紹介しました。

 haradamasaru.hatenablog.com

 

 都築さん、この『圏外編集者』では、自分の体験を踏まえて、本を作る、出版することの意味を語っています。都築さんの編集者としてのスタンスは、「自分が作りたい本、今までなかった本を作るんだ」ということ。だから編集会議なんか無駄だと言っています。みんなでよってたかって考えて、読者層を想定して、担当編集者が下調べしてプレゼンして、営業の意見を聞いて……、そんなことしたら、世の中にすでにある本の焼き直しになってしまう。ネットで調べられるってこと自体がもう2番煎じだ、と断じています。まあ、雑誌の特集記事のことなのですが、広く本作りにも通じる部分があります。

 だから都築さんの本はみんな独創的です。今、わたしの手元には『TOKYO STYLE』という、東京の「ふつうの」人の狭いアパートや家を紹介した写真集があります。東京に住んでるのは金持ちだけじゃないんだ。いや、むしろ、お金はないけど好きなことをやってる人の部屋はこんなんだ。という写真集。これが東京に住む人の平均値、いや平均値とは言えなくても、東京らしい部屋の数々。だから「東京スタイル」。住んでる人のにおいが伝わってくる面白い本です。

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 こんなフレーズもありました。3千8百円だかの、ちょっと値の張る写真集を出した時。「だれがそんな大枚はたいて買うんだ、って言うけど、ユニクロで3千8百円の服、買うでしょ?」 これ、グサリと急所に刺さりました。ユニクロってとこが絶妙。ユニクロで3千8百円の服が買えるのに、書店で3千8百円出して本が買えないのか? どっちが価値があるんだ? ってことですよね。

 「そりゃあ本でしょ!」って答えたくなります。

    都築さんはそうして、一見とんでもない本を出し続けていますが、それがちゃんと読者に受け入れられるところがすごい。


 

 

 おととい、ずっとお世話になっているのにお会いしたことのなかった版権エージェントさんと会ってきました。その時、その方がおっしゃってました。

「どうして海外で売れてる本を、日本の出版社はどこも出してくれないんだろう。『そんなの日本じゃ売れない』っていうけど、同じ人間が読むんだから共感する読者もいるんじゃないか。なぜ、今までどこかで見たような本ばっかり出すんだ」って。それを聞きながら、ああ、都築さんと同じこと言ってるなあ、と思った次第。

 大いに共感。わたしも、できるだけ今まで読んだことのないような本を翻訳したいといつも思っています。暗いから売れない、ドラッグを扱ってるから売れない、ホモセクシャルが出てくるからYAとして出せない、人が死ぬからいやだ……。

 そんなことないと思いますけどね。いや、がんばってる編集者さんもいますよ。わたしの訳す児童書やYAは、どっか尖ってるものが多いですからね。

 

 とにかく、都築さんの本を読むと、いつも元気がわいてきます。本作りに関わっている人間としては、失敗もあるけど、自分の感性を信じなきゃ。でないと、こういう仕事をやってる意味がないじゃないか、って。

(M.H.)