翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

翻訳勉強会(2ー1)

 ほぼ月二回のペースでひらいている翻訳勉強会は、20日の日曜日から課題を新しいものに変えて、第二クールに入りました。

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 課題は、今わたしが翻訳中の "Paperboy" by Vince Vawter です。第一クールは、ロバート・ウェストールの短編で、児童書と銘打ってはいるものの、ほとんど大人向けと言ってもいい作品でしたから、まず、頭の中をしっかりリセットする必要があります。

 

「両親がやとった女性」

 2ページめに、the lady my parents hired というフレーズがありました。「両親がやとった女性」で、なんら問題はないように思えますが、じつはこの小説は、11歳の男の子の一人称で書かれています。それくらいの男の子が、自分の親のことを「両親」と呼ぶでしょうか?    また、「女性」もひっかかります。

    もちろん、そう言う場合もあると思います。ましてこの作品は、彼がひと夏の経験をタイプライターで紙に打っているという設定で、しかも、この男の子は本もずいぶん読んでいるようで、語彙も豊富な賢い子です。

    それでもやはり、そうした設定は小説の枠に過ぎず、物語が始まると、11歳の少年らしい声が聞こえてくるように感じます。というわけで、わたしはここを、「お父さんとお母さんがやとってくれた女の人」にしました。

    すぐあとで、この女性は一種の先生だとわかるので、「お父さんたちがつけてくれた女の先生」などとやってもいいかもしれません。

    こうすることで、彼のまじめでナイーブな「いい子」の感じが出せます。「両親がやとった女性」だと、どこか反抗心がこもっているようにもとれます。

 

 

    児童書の翻訳は制約が多いので、特有のむずかしさがありますが、一度経験しておくと、大人向けの小説の翻訳をめざしている人にも、いいトレーニングになると思います。児童書のあとだと、語彙の制約がなくなってすごく楽に感じるはずです。高地トレーニングのあとのマラソンみたいに。

(M.H.)