翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

Highs and Lows

 翻訳中の絵入り科学読み物の話。地学や地理の用語を調べていると、英語はなんてシンプルなんだ、と思います。それにくらべて日本語は、一生懸命ガクジュツヨウゴを決めて、それを小・中学生に憶えさせているんだなあ、と思います。

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 たとえば、high と low 。

 なにかと思えば、高気圧と低気圧。それぞれ、anticyclone 、low pressure system など、専門的な用語もあるようですが、とりあえず、高気圧は high 、低気圧は low なんですね。それじゃわかんないでしょ、と思うかもしれませんが、気象の話をしている時に、名詞の high や low が出てくれば、それは高気圧と低気圧だとわかるというわけ。

 trench は海の底にある海溝。マリアナ海溝の海溝ですね。oceanic trench という言葉もあるようですが、とりあえず、trench。戦争の話で出てくれば塹壕、お城の話なら濠、ですが、海底の話で出て来れば海溝、というわけ。

 海岸が波の力で侵食されてアーチ型の岩ができることがありますが、あれは英語では natural arch または natural bridge 。この本では、ただ arch となっています。それが崩れて岩の柱になると、 sea stack、あるいはただの stack 。対応する日本語を調べると、天然橋と海食柱(離れ岩、岩塔なども)。うーん、かたいなあ。

 

 つまり、英語は形や本質が共通しているものは、どのジャンルのものでも同じ言葉でとりあえず呼んでしまおう、という姿勢があるみたいです。言葉よりも先に形やイメージがある、と言えばいんでしょうか。それを辞書の訳語でならべていくと、「なんでこんなにたくさん意味があるんだ!」と思うわけです。でも、よく見ると、共通の、あるいは、基本の二つ三つの形やイメージがあって、最近の辞書はそれをちゃんとまとめてくれています。

 塾の担当の生徒で、幼い頃からネイティヴスピーカーの英語教室に通っていた高校生がいます。単語テストがあまりできない。つまり、『◯◯必修3500語』なんていう単語集の300番から400番までテストね、といって、日英を一語対一語で対照させるテストが苦手です。なのに英文の内容把握はよくできるし、和訳も悪くない。

 たぶん、単語がコロケーションや文脈で頭に入っているんでしょう。low を低気圧とすぐに言う必要はないけれど、天気の話で出てくれば低気圧だってわかる。そういう理屈です。

 

 専門書は英語で読むほうがわかりやすい場合があるようですが、たぶん、それはそういうことなんでしょう。でも、この本は、日本語でも読みやすい本にしたい。漢字を組み合わせて作った日本語の用語にも、それはそれで味があるし、面白がって憶える子も絶対いるしね。

(M.H.)