翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

Best Mom

 母の日、都内で一人暮らしをしている息子が久しぶりに帰ってきました。家内はむちゃくちゃうれしそう。

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  花とケーキを買ってくるあたり、さすが社会人4年目の気くばりです。

 で、"Best Mom" というカードを見て、翻訳中の "Paperboy"(by Vince Vawter) に出てくる、"Mam" という呼び名のことを思い出しました。

  1959年のメンフィス。主人公の白人の少年は、住みこみの黒人のメイドさんのことを "Mam" と呼んでいます。ほんとうは "Miss Nellie" と呼ぶように言われたのですが、吃音症の少年はうまく言えず、代わりに "Mam" と呼んでいます。さて、この "Mam" はどういう発音で、どういう意味があり、ネイティヴが読むとどういうニュアンスを読みとるのでしょうか?

 身の周りの世話をしてもらっているので、母親みたいに思っているからなのか、と思い、辞書で mother の呼称を調べると、Mom, Mum がふつうで、まれに Mam が使われると書いてあります。Mom はアメリカ、Mum はイギリス、Mam はスコットランドやイングランド北部の幼児語、などという記述も見られます。ネット上のQ&Aサイトでは、英語圏の人たちの間で、どれが正しい表記で、なにが正しい発音なのかについて議論が交わされています。その人の暮らしている地域や国籍などでいろいろな意見があり、どれもまちがっているわけではなさそうです。

 で、どうしたかというと、作者に問い合わせました。すると、これは身分の高い女性や、一般に女性客に声をかける時などに用いる "Ma'am" (Madamの縮約形)と使い方も発音も同じ、という答えが返ってきました。また、吃音者である少年(作者の少年時代がモデル)が発音しやすい音であることは作中で触れられています。

    じつは、Mom, Mum, Mam、そして Ma'am にも、それぞれいくつか発音のバリエーションがあるのですが、ネットで音声をあれこれ調べてみると、Ma'am の日本語表記としては、「マーム」または「マアム」にしようと思っています。

 こうなると、主人公は使用人の黒人のメイドさんを、敬意のこもった呼び名で呼んでいることがわかります。ただ、このあたりは日本語で「マーム」としただけでは伝わらないので、仕方なく注をつけることにしました。この主人公、ほんと、素直でいい子なんですよ。この少年とマームの関係が作品の読みどころのひとつです。

 あ、『ペーパーボーイ』は、岩波書店のSTAMPBOOKSのレーベルで、7月に刊行予定です。お楽しみに!

 

 で、うちの「Best Mom」は、うれしそうに息子が買ってきたケーキを食べておりました。(^ ^)

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 え? おまえは自分の母親になにかしたのか、って? ああ、息子から「おばあちゃん、元気?」って電話をさせました。ハイ。

(M.H.)