翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

ウェストールとチェンバーズ

 友人を介して、以前から、ウェストールの研究をしている大学院生の方とやりとりがあります。昨日、そのSさんとお会いして、ウェストールの作品の舞台を訪ねた、イングランド研究旅行のおみやげ話を聞かせてもらいました。

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 写真は、ウェストールの『海辺の王国』に出てくるリンディスファーン島近くの修道院跡です。ハリーが引き潮の時に出てくる陸地を渡っていると、潮が満ちてきて……、という場所ですね。

 ニューカッスルに9日も滞在して、ウェストールの生家をはじめ、ゆかりの地を訪ね、ちょうど開催されていた、マイケル・モーパーゴの講演を聴きにもいったそうです。道に迷ったり、親切な地元の人に車に乗せてもらったり、という彼女の楽しそうな冒険の話を聞いていると、こちらもずいぶん若返りました。ちょうどSさんの年代に、一人でスコットランドを何日か回った時の記憶が蘇ってきます。その日の宿も予約せずに、よく旅行したものだと、今になると思いますが、当時はなんとも思っていませんでした。

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(ニューカッスルやタインマスは、今は地下鉄が走っているのですね。)

 

 Sさん、じつは、学会のエイダン・チェンバーズに関する研究発表を聴きにいくために、拙訳『二つの旅の終わりに』を読み、いくつか質問したい、というのがもうひとつの目的でした。わたしも久しぶりにこの作品のことを思い出し、チェンバーズさんとやりとりしたメールのコピーなども読み返して、懐かしくなりました。今思うと、日本語版で500ページを超えるこの大部の作品を、よく訳したものだと思います。

 

 ウェストール、チェンバーズという、二人の作家を通して、日本にいるわたしが、若い文学研究者と親交がもてるというのは、とても不思議な、そして素晴らしいことだと思いました。

 Sさん、今年は修士論文を書く年だそうです。戦争と文学の関係、ウェストールの作品、そのあたりがテーマになるのでしょう。どんな論文になるのか、楽しみです。

(M.H.)