翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

翻訳勉強会(2−6)

 月曜日の勉強会には、課題にしている『ペーパーボーイ (STAMP BOOKS)』(ヴィンス・ヴォーター作、岩波書店)の編集者、Sさんが見学に来てくださって、STAMP BOOKS 創設時の話をしてもらい、いろいろ質問にも答えていただきました。参加者の皆さんも、そして、わたしもいい刺激を受けました。Sさん、ありがとうございました。

Paperboy

 

 さて、今回、問題になった箇所から、ひとつ。

I didn't usually pay much attention to dresses that ladies wore but this one looked special the way the wide belt fastened tight around her middle like it was dividing her into two parts. ("Paperboy" by Vince Vawter, Chap.2)

  問題は二つ。一つは、the way の使い方でした。way はもちろん名詞ですが、the way の形で接続詞的(辞書によっては副詞的とも)に使われます。意味は、「〜のように」という as と同様の使い方と、そこからさらに「〜の仕方・様子から判断して」という意味があります。ここでは「女性のウエストに幅広のベルトが巻かれ、まるでその人を二つの部分に分けているように見えていて、その様子から、この女性の着ているドレスが special に見えた」という意味でしょう。

 そして、もう一つは、その「まるでその人を二つの部分に分けているよう」という描写です。1959年という時代背景からすると、おそらく、思い切りウェストを絞ったセクシーなタイトドレスのウェストに、エナメルの黒いベルトをこれでもかというくらいきつく締めているのでしょう。いわゆる、ポン、キュッ、ポン、ですね。次の日、メンバーの方が、若いころのB.B.(べべ、こと、ブリジッド・バルドー、ってわかりますか?)の写真などをネットで見つけて、みんなにメールしてくれました。

 ただ、ここで考慮に入れておかなければならないのは、この文の視点は11歳の少年で、彼はこの女性に淡い恋心やおそらく性的な関心を抱くのですが、その気持ちを自分ではうまく説明できない、ということです。ですから、この場面も、「彼女を二つの部分に分けるかのように」と妙に物理的な描写になっています。だから、そのあとの想像は(妄想か?)、読者がその人の年齢や知識に応じて勝手にやってね、ということになると思います。でも、今の若い人たちは、こういうドレスやベルトを身につけた女性の姿をほとんど見ていないはずで、まして、日本の中高生にはわからないでしょう。だからと言って、主人公が自覚的に「なんて色っぽい女性だろうと思った」みたいな訳し方をするわけにはいきません。うーん、むずかしい。

 わたしは、あまりいじらずに訳しましたが、みなさんならどうしますか?

ぼくはふだん女の人の服装にはあまり注意をはらわない。でもそのドレスは特別だった。ウエストにぴったり巻かれた太いベルトがまるで奥さんを上下に切りわけているように見えた。

 ああ、そうだ、 special も、もっといい訳し方があるかもしれませんねえ。ちょっと色気がなさすぎかなあ。でも、原文の英語からはあまりそういうものは感じないと思うのです。そして、このあと、アイシャドーや口紅の話も出てくるので、前後の描写で、この時の主人公の気持ちは伝わると思います。いろいろ考えて、でも、あんまりいじりすぎないのが正解だと思うのですが、どうでしょうか?

 

 

 この日は、たまたまわたしの誕生日で、勉強会のあと、サプライズでお祝いをしてもらいました。ほんとにびっくりしました。こういうのは初めてで、とてもうれしかった。みなさん、ありがとうございました。

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(M.H.)