7月8日に、訳書『ペーパーボーイ』が発売されます。岩波書店のYAレーベル「STAMP BOOKS 」の一冊です。このシリーズの装幀は、見てもらえればわかるように、エアメールのように海外から作品が届けられる、というコンセプトなんでしょうね。
いい表紙です。装画は丹地陽子さん。夏の光が見事にとらえられています。
ペーパーボーイ、とは、新聞少年のこと。作者はヴィンス・ヴォーターさん。ジャーナリストだったヴォーターさんが、新聞社勤めを引退して初めて書いた小説がこの作品で、アメリカのボストングローブ・ホーンブック賞の佳作に選ばれています。ヴォーターさんは自身が吃音者で、吃音者理解のための啓蒙活動もされているのですが、吃音者を主人公にした若い人むけの小説がないことに気がつき、自分の経験を織りこんで書き上げたのがこの作品です。
舞台はアメリカの南部、メンフィス。主人公は11歳の吃音症の少年。友達のピンチヒッターで夏の一ヶ月間、新聞配達をすることになり、配達先のさまざまな人たちとの交流を通して大きく成長していく物語です。吃音者であるが故のコミュニケーションの難しさは、じつは、言葉による普遍的な意思疎通の難しさに通じていて、共感する点が多いと思います。主人公のまっすぐな心が、個性的な人たちとのやりとりの中で浮かび上がってくるのですが、ちょっとした事件も起こり……。
この本は、原作を読んでとてもいい作品だったので、わたしからのもちこみ企画で出版に至ったので、とてもうれしいです。
ああ、そうだ、この小説、主人公が夏の出来事をタイプライターで打ったという設定なのですが、吃音者である彼は、コンマを打つとそこでどもってしまうため、コンマがきらいです。だから原作では、会話の呼びかけの前後などを除き、原則コンマがありません。翻訳も基本的にはそれを踏襲していますので、読点「、」がほぼありません。案外、それでもどうにかなるもので、あれこれ工夫しながら読みやすい作品にしたつもりですので、どうかそこも楽しんでください。
すでに予約も受け付けていますし、今週末には書店に並ぶと思います。どうぞよろしく!
(M.H.)