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翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

作者の思いを言葉にのせて

 JBBY(日本国際児童図書評議会)の会報誌、『Book & Bread』の127号(2016年6月)に、「作者の思いを言葉にのせて」という記事を書かせてもらいました。

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 趣旨をここにも記しておきたいと思います。

 去年から今年にかけて出た訳書3冊の共通点が、原作者の経験や思いが強く反映された物語だったということ。

『ハーレムの闘う本屋 ルイス・ミショーの生涯』(ヴォーンダ・ミショー・ネルソン作、グレゴリー・R・クリスティ絵、あすなろ書房)は、ニューヨークに黒人専門書店をひらいたミショーさんの人生を、彼の弟の孫にあたる作者が、丹念に取材し、時間をかけて書き上げた本です。

『エベレスト・ファイル シェルパたちの山』(マット・ディキンソン作、小学館)は、エベレストを舞台にしたシェルパ族の少年の物語ですが、作者のディキンソンさんは、自らがエベレスト登頂経験者であり、その経験や、登山や自然、シェルパの人たちへの思い入れがよく伝わってきます。思いつきで書いた作品でないことは明らかです。

 そして、『ペーパーボーイ』(ヴィンス・ヴォーター作、岩波書店)は、吃音者である作者が、自身の体験をもとに書いた初めての小説でした。

 

 作家はみな、心の中に、書かずにはいられない衝動やテーマを抱えているからこそ作家になるのだと思いますが、この3作は、そうした思いがことのほか強い作品だと思います。長年にわたって毎年のように新しい作品を発表しつづける作家もいますが、この3作は、作品のための作品ではなく、どうしても書かずにはいられなかった作品だと思うのです。そして、その思いが強く伝わってきます。


 わたしは、英語の小説を読むと、「翻訳したい」「翻訳したいとは思わない」という判断を常にするようになってしまいました。そして、訳したいと思った作品をふりかえってみた時、児童書やヤングアダルト作品であるということ以外にどういう共通点があるのだろうか、と、時おり考えることがありました。が、今回、この記事を書いて、そうか、もしかしたらそういうことなのかもしれない、と思ったのでした。

ハーレムの闘う本屋エベレスト・ファイル シェルパたちの山 (児童単行本) ペーパーボーイ (STAMP BOOKS)

(M.H.)