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翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

翻訳の秋

 塾の夏期講習が終わると、また、本格的に翻訳の仕事にかかれる季節がやってきます。暑さも少しやわらいで(というか、今日は台風による雨が降っていますが……)、パソコンにむかっているのが、それほど苦ではなくなります。

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 今、翻訳中の小説、5分の1くらいまで進みましたが、いまいち、主人公たちの口調が定まりません。一人称とセンテンスの収め方がむずかしい。

 

 気が強くて粗野なところのある少女は「あたし」でもよさそうですが、なんだか作品全体の品が悪くなりそうです。やっぱり「わたし」で行くしかないのか……? 文の終わりもできるだけ「……だわ」「……よ」「……ね」などは避けて、凛々しい感じを出したいのですが、案外、こうした文末処理も、気の強い女の子を表わすには悪くないとも思います。「役割語」ですね。

 少年も、「おれ」でもよさそうですが、この子、とってもいい子なんです。「いい子感」を出すには、やっぱり「ぼく」かな。悪役の男も、「わし」でいくか、「わたし」にするか、迷います。高齢ではあるものの、軍人なので、権威を感じさせるには、やはり「わたし」でしょうか。登場するオオカミたちにも、オスとメス、そして、それぞれの性格があり、こちらはセリフがないぶん、個性をつかみながら、矛盾のない描写をつなげていくことに腐心します。

 

 たぶん、しばらくは手探りが続くでしょうが、自分の選んだ言葉で、日本語版の登場人物が造形されていく感覚は小説の翻訳の醍醐味でもあります。微調整しながら、最後にはブレない人物像が浮かびあがるとよいのですが……。

 

 あ、ひとつ助かるのは、ロシアの冬の話なので、秋を通りこし、雪の降り積もった森が舞台だということ。部屋の温度が何度か下がる気がします。シベリヤの冬の針葉樹林を見たことがありますが、それは美しい風景でした。物語は、さらに西のほうなので、少し様子はちがうのかもしれません。ネットでこのあたりの森の画像を時々確かめながら訳しています。

(M.H.)