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翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

翻訳勉強会(2−12)リリーフピッチャー

翻訳勉強会

 昨日の続きです。勉強会のテキストで "reliever" という言葉が出てきました。野球のリリーフピッチャー(救援投手)です。ところが、「リリーフピッチャー」がどういう意味なのか知らないメンバーのほうが多かったのには驚きました。まあ、この日出席していた七人はみな女性ですから。わたしと同年輩の方は知ってる方もいました。巨人・大鵬・卵焼き、の世代ですからね。でも、同年輩でも知らない方がいて、子どものころは好きな番組が見られなくなるので、野球中継を目の敵(笑)にしていたそうで、野球用語はわからない、と。

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 具体的にどういうことだったのかは、メンバーの方のブログを参照してください。

kiminisachiare.glee.jp.net

 

 さて、ここからが本題ですが、こうした教養と言えるかどうかぎりぎりの線の知識は、翻訳者として必要なんでしょうか? 実際問題、あらゆるスポーツに精通し、人気映画はすべて見て、名画・名曲もすぐ説明できる、なんて人はいないでしょう。

 だから調べる。関連本を読む。あるいは、知っている人にきくわけです。去年『エベレスト・ファイル シェルパたちの山』を翻訳した時は、久しく山岳小説を読んでいなかったので、とりあえず『神々の山嶺』読み、登山シーンの描写を参考にしました。もちろん、登山用語辞典もそろえましたし、若いころに一時、新田次郎や植村直巳の本などを読んでいたことも役に立ちました。

 ただ、こういう作品は最初からそのジャンルの作品だとわかってるから、まだいい。ごくふつうの日常を描いた中に、スポーツや趣味の話がポロリと入ってる時がやばい。今回のように、reliever が「リリーフピッチャー」のことだと気づくかどうか、そもそも、リリーフピッチャーという存在そのものを知らない人にとっては難しいかもしれません。

『ランダムハウス英語辞典』をひくと、reliever の語義は、「(1) 救済者、慰安[救い]となる人[もの]。(2)【機械】緩和装置。(3)【野球】= reliefpitcher 」となっていました。なるほど、知らない人が辞書をひいたら、(3)と考えて reliefpictcher を引き直すことはしないかもしれません。3番目で、しかも別の言葉の言い換えなのですから。

 わたしはこの部分を訳す時に辞書をひいた覚えがありません。文脈と、主人公が野球少年であることと、作者のヴィンス・ヴォーターさんが、自身、野球で大学まで入った人だと知っていたことが大きかったと思います。

 ためしに、reliever をググってみると、"pain reliever" 「鎮痛剤」や "stress reliever" 「ストレス緩和剤」、そして、野球の「リリーフピッチャー」が出てきます。スポーツニュースなどでは、「ヤンキースが、パドレスのリリーヴァー〇〇を、年俸〇〇ドルで獲得!」なんていう記事がヒットします。

 大切なのは、こういうことがあるのだと知っておいて、なにか妙だと思ったら調べる、詳しい人に聞く、という姿勢でしょう。そして、なにかあるぞ、と気づく勘が大事。勘というと、なんだか行き当たりばったりのようにも思えますが、経験によって培われたアンテナ、ですね。

 

 ただし、"reliever" が「リリーフピッチャー」のことだと気づいてそう訳すのはいいのですが、若い読者にはなんのことかわからない可能性があり、それはまた別の問題として残ってしまいます。注をつけるなんて、とくにこの場面では野暮だし、さりとて、読者にわからない言葉をそのまま放置しておくのは……などと考えだすときりがありません。

  でもね、知らない言葉が出てくるのが本の魅力なのだよ、若い読者諸君!

 

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 勉強会の会場、川越の絵本カフェ「イングリッシュブルーベル」( Ehon Cafe - English Bluebell - )さんの前に咲いていたシュウメイギク(秋明菊)。すごく元気な株で、つぼみもいっぱい。Kさん、しばらく楽しめますね。

(M.H.)