翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

劇団俳小による舞台『弟の戦争』

 土曜日、観てきました! いやあ、緊迫感あふれる1時間45分。カーテンコールのころには、もうぐったりと椅子に沈み込んでいました。

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  土曜の夜の部。池袋のシアターグリーンのボックスインボックスは100人ほどの小さな劇場ですが、席はほとんど埋まっていました。劇団の方に聞くと、毎日、8割がたチケットが売れ、最終日は売り切れだったそうで、うれしかったし、ちょっとホッとしました。

 過去の「弟の戦争」の舞台は、青年劇場は舞台が大きくて、正統派とでもいうべき演出でしたし、劇団うりんこでは、鉄パイプだけの大道具で、少し前衛的な演出でした。今回の劇団俳小の演出は、せまい小屋を最大限生かす工夫がされていました。大道具は手前に家の中のセット(時に戦場に)、奥の上にトムとフィギスの寝室(後半は病室)を作り、照明の切り替えで、瞬時に場所を移動するような演出。テレビのナレーションや、ラシード先生のコメントなども、舞台袖の役者さんにスポットをあてながら、時間的にも同時進行させるような演出でした。

 ですから、観ている方も、演じている方も休みなし。すさまじい緊迫感で、あっという間の1時間45分。あんなに緊張しっぱなしだったことはないかもしれません。イラクの映像や、アラビア語のせりふなどもあり、原作では想像しきれない視覚・聴覚を刺激する舞台だったのですが、油断していると、自分の訳した文章がそのまませりふになっていて、役者さんの肉体を通じて発せられた言葉に、その都度背筋が震え、じわりと涙が出てきて、なんともいえない不思議な体験でした。これは翻訳者だけが味わえる特権ですね。

 

 上演後、主役の方とお話ができました。ホースィー役の田中美央さん(劇団俳優座所属)はホースィーそのもの。大柄で声の太い、存在感抜群の役者さんでした。彼がいてこそ、トムとフィギスが生きます。トム役の町屋圭祐さん(劇団昴所属)は、あれだけのせりふを、たぶん一度もとちらず、すごい! アンディ(フィギス、ラティーフ)役の駒形亘昭さんは、アラビア語をイラク大使館まで行って教わってきたそうです。

 劇団代表の斎藤真さんは、「この舞台は、今、この時期にやる意義が一段と大きくなっている」とおっしゃいました。まさにその通りです。遠く離れた自国の領土ではない土地で行われる戦争に、自分の国がどうかかわるか、考えなければならない時代がずっと続いているし、また、憲法改正が現実味を帯び、自衛隊のPKO派遣時の駆け付け警護が可能になった今、日本人の目の前にある問題となっているからです。

 

弟の戦争

 

(M.H.)