翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

読書会『ゆかいなホーマーくん』

 月曜日の古典児童書を読む会の課題本は、『ゆかいなホーマーくん』(ロバート・マックロスキー作、石井桃子訳、岩波書店)でした。

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 マックロスキーは名前だけ知っているものの、作品をちゃんと読んだ、というか、見たことがありませんでした。この作品だけでなく、代表作である『かもさん おとおり』や、『サリーのこけももつみ』、『すばらしいとき』といった絵本も見せてもらいました。

 カラーの『すばらしいとき』もよかったけれど、モノクロの『かもさん おとおり』がよかった。絵本というと、どこか平板な絵を思い浮かべるのですが、彼の絵は遠近法をしっかり使って、奥行きがあり、かつ、動いている人物や動物の描写に躍動感があってすばらしかった。

 課題本の『ゆかいなホーマーくん』は、マックロスキーが物語と挿絵の両方を担当している、コミカルな小学校中高学年むけくらいの物語です。出版は1943年、第二次大戦中です。アメリカがどんどん豊かになっていく時期にあることがよくわかります。ただ、やはり、コミカルな話は時代や社会の背景に由来するものであることも多く、また、言葉遊び的なものは、翻訳の限界を感じました。

 それでも、どれも楽しい話ばかりで、とくに「ドーナツ」の話は秀逸。この本の表紙絵にもなっていますが、自動ドーナツ製造機でドーナツを作りすぎる話です。少年少女文庫のほうはインクがふつうに黒いのですが、このハードカバー版は、文章も挿絵もセピア色のインクで印刷してあり、とてもいい感じ。日本語版の初版は1965年、わたしが八歳の年です。

 しかし、いつも感じるのですが、読書会のメンバーのみなさんは、ほんとうによく本を読んでいて驚かされます。子どものころに読んでいる人、息子さんと一緒に読むのがおもしろかったという人、マックロスキーが来日した時の講演会に行ってる人……。

 

 

 

 こうした、純粋に楽しめる小学生向けの読み物は、今、日本の作家のものも、海外のものも少なくて、それはどうしてなんだろう、という質問を投げてみたのですが、Kさんからは、作家の側がほんとうに子どものことを考えて作品作りをしていないからではないか、という話がありました。「純粋に子どもが作品の中にひたって楽しめる」、そういう本をもっと子どもに読ませてやるべきだ、という意見には全面的に賛成なのですが、翻訳者という立場では、「自分が(も)楽しめる」作品をつい求めてしまいます。守備範囲がヤングアダルト中心ということもありますが……。いや、因果関係が逆ですね。自分が楽しめる作品を求めると、ヤングアダルトになる、ということです。

 この件については、なかなかわたしも考えが整理できていないところ。いろいろな作品があっていいし、いろいろな作家や翻訳者がいていいとは思うのですが、子どもの本を翻訳している身なのに、どこか自己満足に終わってるだけなんじゃないか、という、整理しきれない思いがいつもあります。一方で、頭で考えて選んだ本を、子どもに「与える」のもちがうだろうと思うし。

 

 結論はありません。すみません。

(M.H.)