翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

セリフが作る登場人物 (翻訳勉強会 4−4)

 昨日は川越の絵本カフェ、イングリッシュブルーベルさんでの翻訳勉強会の日でした。第一章から始めた今の課題も、数回前から、後半のクライマックス部分を訳しています。この日は、まさに緊迫の場面。あまりくわしく書けませんが、暗殺未遂の場面です。

 

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 数人の登場人物が緊張感のあるセリフのやりとりをするのですが、当番だった方は、わりと丁寧な言葉遣いで、それぞれの身分や立場が考慮された訳でした。隣の人にも同じ部分を読んでもらうと、びっくりするくらいハードボイルドな感じ。どちらも原文の意味はほぼ正確に反映されているのですが、セリフの処理による印象の差がこれほどにもちがうのか、というのがよくわかりました。

 こうして、読者に与える印象に大きなちがいが生まれる可能性(危険性?)があるということは認識していなければなりません。そして、そのちがいが、原文の読み取りを積み上げていくことで、ある幅の中に収まっていなければなりません。

 お二人のセリフの処理にかなりちがいが出た理由のひとつは、今回は勉強会なので、中盤の100ページ以上を飛ばしていて、本来ならば物語の展開や読み込みによってキャラクターをじわじわと立体的に作る手続きを省いている、ということがあげられます。勉強会で長編を課題にした時には避けられない問題ですね。

 しかし、全編訳してきても、その過程で、訳者の好みや解釈によって恣意的に作られたイメージが混じってしまう可能性があります。もしかしたら全編を訳しても、お二人の訳文には今回と同じような違いが残ったかもしれません。つまり、個人のくせですね。勉強会も一年半以上続けていると、やはり一人一人のくせは明らかになってきていますし、皆さんも、それには気づいていらっしゃいます。私自身にもくせは明らかにあります。

 となると、道は二つ。一つは、自在に登場人物のせりふを操ることを目指す道。もう一つは、自分の訳文の傾向にあったジャンルや作品を選んで訳す道です。まあ、もちろん、そんなにうまく仕事は選べないわけですし、翻訳者のスキルとしては、どちらもできるようになったほうがいいわけですが、自分の場合は明らかに後者ですね。そして、たぶん、そのほうが、自分にとっても作品にとっても幸せなのではないでしょうか。

 

 

 上の写真は、勉強会の皆さんからいただいた香り付きのバラのドライフラワーです。ありがとうございました。じつは、ちょうど今日で還暦です。信じられません。

 下の写真は、一緒にいただいた、生まれた日(1957年6月27日)の毎日新聞。テレビ欄のアップです。東京版ですが、テレビはこの3チャンネルしか載ってません。「鞍馬天狗」「スーパーマン」「ロビンフッドの冒険」「アイ・ラブ・ルーシー」……。ん? 小泉八雲も6月27日生まれなのか……。ヘレン・ケラーは同じだって知ってたけど……。

 映画欄もおもしろい。「王様と私、50えん、冷房、新橋名画座」。たしかに、調べてみると、ユル・ブリンナー、デボラ・カー主演のあの有名な映画は1956年製作ですねえ。

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 もう、今から60年は生きられないけど、まだまだ、がんばるぞ。

(M.H.)