翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

翻訳勉強会(6−3)

 というわけで、昨日は貴重な初版本を見せてもらってからの翻訳勉強会でした

 Garth Nix の "Lirael" の続きです。

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 この日の注目単語のひとつは sensible。受験参考書には、たいてい sensitive との使い分けが書いてあります。sense には、そもそも、「感覚」「良識」「意味」という主な意味があることは、塾でもしょっちゅう高校生に教えています。the sixth sense「第六感」、common sense「常識」、nonsense「無意味」ですね。まあ、辞書を引くと、もっと微妙なニュアンスで、訳語がぞろぞろ出てきます。

 また、形容詞はよく、人の描写か物の描写かで意味がズレますが、sensible をコウビルドでひくと、1. A sensible person is able to make good decisions and judgments that are based on reasons rather than emotions.   2. Clothes that are sensible are practical and strong rather than fasionable and attractive. となっていました。

 ロングマンだと、1. reasonable, practical, and showing good judgement.  2. suitable for a particular purpose, and practical rather than fasionable. となっています。

 

 問題の箇所は、

  "Besides, she thought a small dog-sending would be more sensible than a big one.  She wanted a comfortable friend, not a dog large enough to be a guard-sending."
                ("Lirael" p.96, by Garth Nix, 2001, Harper Collins")

 人間ではなく犬のこと。ただし、魔術を使って犬の精霊(sending=魔術で作られた使用人や動物)を作ろうとしている場面なので、ちょっと特殊ですね。しかも、犬となると、人あつかい、物あつかい、どちらも考えられます。とくにファンタジーのキャラクターならば、犬の描写にも人に使う意味で形容詞が使われる可能性は十分あります。一方、物というか、人間の付属物としての描写も考えられます。

 この箇所は、大きな犬の精霊より、小さな犬の精霊の方が分別がある」(9.19.訂正)とも訳せます。しかし、そうなると、「大きな犬は分別がない」ということになりますが、むしろ大型犬のほうが賢い場合もありますから、ちょっとイメージとずれる。

 ですから、「(魔術で)大きな犬(を作る)より、小さい犬の(を作る)方が sensible だ」、と考えたほうがよさそうです。「実用的」「丈夫」とは訳せないまでも、そうするほうが「賢明だ」「好ましい」「ふさわしい」という意味になりそうです。ロングマンの2.の語義、suitable for a practical purpose がわかりやすいかもしれません。直後の一文へのつながりも考えると、なおさらです。

 

 あ、こうして、人の説明、物の説明、と場合分けして形容詞の語義を説明している辞書はわかりやすいですね。Collins Cobuild にはしばしば救われています。

 

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 勉強会のあいだに雨がふりました。少し涼しくなった! 雨のあとのほうが、アップルミントの匂いが強くなっていた気がします。

 

(M.H.)