先日の記事でもふれましたが、もう一冊、もうすぐ出る新刊のご紹介。
『夢見る人』(パム・ムニョス・ライアン作、ピーター・シス絵、岩波書店)です。
チリの詩人、パブロ・ネルーダが、まだネフタリ・レジェスだった子ども時代を描いた作品です。アメリカのYA作家パム・ムニョス・ライアンが、ネルーダの自伝のエピソードをふくらませて書いたものに、わたしも大好きな画家、ピーター・シスが挿絵をつけています。ネルーダが好きだった緑のインクで印刷された、とても美しい本です。
緑深いチリの小さな町テムコで育ったネルーダは、病弱でしたが、好奇心旺盛で、周囲のこまごまとしたことに心を奪われ、いわゆる、ぼーっとしている少年でした。実学を学び、経済的な基盤を築いてほしいと願う苦労人の父親のきびしいしつけに耐え、美しいものに対するまっすぐな気持ちを育み、詩を書きはじめますが、しだいに社会の不正義に対する疑問をふくらませていきます。
ネルーダは、社会や政治の問題に敏感で、やがてはチリの大使として内戦下のスペインに駐在し、人民戦線に共感して、社会主義的な思想を抱くようになるわけですが、その根源は、この作品に描かれている子ども時代にあるのでしょう。一方で、詩作や新聞への投稿など、ごく幼いころから文才を発揮し、いずれはノーベル文学賞を贈られるまでになります。ラブレターの代筆のエピソードは微笑ましくも、少し胸が痛むお話です。
この作品では、こうした社会活動家・詩人としての萌芽が描かれているわけですが、文章は幼いネフタリの視線で描かれ、そこにピーター・シスのやわらかな挿絵と緑の活字が組み合わさって、読者の想像を刺激するビジュアルなものになっています。翻訳は、なかなか文章のタッチが定まらず、苦労しました。幼いネフタリはしだいに成長し、最後にはサンチアゴの大学へ行くために家を出るわけですが、その間の成長によって、文章も少し大人びたものへと変化していきます。
この作品でわたしが一番共感するのは、自然や文章の美しさや不思議さを素直に認めて楽しみ、そこに価値を見出す幼いネルーダの視線です。原題は "The Dreamer" 、邦題も『夢見る人』。ネルーダは理想主義的すぎたのかもしれませんが、美しいものを評価し、弱いものを守ろうとする心は、あまりにも効率一辺倒になってしまった現代にこそ必要なものなのではないでしょうか。
と、硬い話を書きましたが、先日紹介した『プライアーヒルの秘密の馬』も、こちらの『夢見る人』も、挿絵の入った本の力を再認識できる本です。絵と文章のからみあう作品は、自分も子どものころに散々お世話になったものですし、あの絵があったからこそ、何度も読み返したのではないかと思う作品もあります。挿絵の入った読み物は減ってきているように思いますが、きれいで、楽しくて、手元においておきたくなりますよ。
ぜひ!!
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(M.H.)