すでに何度か紹介している本ですが、先日の上野のブックフェスタで、実物を見た方がどんどん買っていってくれたので(1日で10冊近く売れたと思います)、挿絵や装幀をもう少しお見せしましょう。この本、手にとってみると欲しくてたまらなくなると思うのです。
まずは冒頭。そう、主人公のエマラインの目には、療養所の鏡の中に翼のある馬たちが見えるのです。
このあたりのイラストは、挿絵を描いたリーヴァイ・ピンフォールドのサイトに行くと、もう少し鮮明なものが見られます。日本語版に収録されていない絵もありますから、ぜひのぞいてみてください。また、ピンフォールドのほかの作品も見られます。
各章の冒頭には小物の絵があるのですが、これがまた秀逸。たとえばこのミトン。アメリカから慰問品で送られてきたミトンは、網目もふぞろいで……。たしかに、大きさがちがいます。
やがてエマラインは、隣接する庭園に、一頭の翼のある馬がいることに気づき、時おり抜け出しては庭の中に忍び込み、その馬、フォックスファイアと交流するようになります。
フォックスファイアは翼の傷を癒すためにこちら側の世界にやってきたのでした。
結核に苦しむ子どもたちですが、この年は、クリスマスツリーを立ててもらえることになります。
しだいにエマラインの病状は重くなりますが、フォックスファイアのことが気になってしかたがありません。
鏡のむこうからやってきた邪悪な黒い馬から、フォックスファイアを守るために、馬の長に告げられたとおり、虹の色を集めるエマライン。果たして逃げ切れるのでしょうか……。
物語はさまざまな解釈ができるように書かれています。二度読むと、細かい描写がつながっていくのがわかります。
エマラインの家族にはなにがあったのか? 彼女がぼさぼさの髪をしているわけは? ほんとうに翼のある馬はいたのだろうか? 用務員の片腕の若者トマスの存在もミステリアスです。第二次世界大戦当時、まだほとんど不治の病だった結核にかかった子どもたちは、きっと想像力を頼りに毎日を生きていたのでしょう。馬たちは、その想像の産物だったのでしょうか。
現実と想像が入り混じり、まるで読んでいるこちらまでもが熱に浮かされた主人公たちのような気持ちになっていきます。リアルな描写と細密な挿絵があいまって、モノクロームのページの中に、虹の色が見える気にさせられるのが不思議です。ほかにはなかなかないタイプの作品を、ぜひ、味わってほしいと思います。
(M.H.)