月曜日は翻訳勉強会のあと、古典児童書を読む会でした。課題本は『イシ──二つの世界に生きたインディアンの物語』(シオドーラ・クローバー作、中野好夫・中村妙子訳、岩波書店)。
(クッキーは、イシが食べていたドングリ粉をイメージして、きな粉を使ったクッキーでした。おいしかった。)
1911年に見つかった、カリフォルニア・インディアンのヤヒ族最後の一人がイシでした。ヤヒ族の言葉をおぼえ、彼の生活の様子を聞き取りしたのが、カリフォルニア大学の文化人類学者アルフレッド・クローバー教授。この本は、研究書として執筆された本を、子どもむけに書き直したもので、作者のシオドーラさんはクローバー教授の奥さんなのだそうです。(お二人は、『ゲド戦記』のアーシュラ・K・ル=グウィンの両親です。挿絵は、やはりどちらも同じ、ルース・ロビンス。とてもいい絵です。)
ゴールドラッシュで西部に入ってきた白人たちに追い詰められ、捕らえられ、あるいは殺されていったいわゆるインディアンたちの中で、少人数でひっそりと山の中でくらしていたイシたちの生活が、丁寧に描かれています。また、白人の世界に出て、博物館の中に住まい、その暮らしぶりを伝えたイシの最後の様子も描かれています。
いろいろな感想をもちました。イシの暮らしぶりから、人間にとって大切なことはなにかを感じますし、また、物や人、動物や植物、生や死について、とても丁寧なアプローチをしながら暮らしていることがわかり、現代文明のマイナス面が浮かびあがってきます。アメリカ・インディアンといい、『夢見る人』にも出てきたマプチェ族をはじめ、南米のインディオといい、また、日本におけるアイヌの人たちへの仕打ちといい、つい150年ほどのあいだに、いろいろな文明が消されていくのは悲しいことです。
一般むけに書かれた本のほうは、かなりつらい描写もあるそうですが、こちらは、時系列にイシたちの暮らしを再現していくので、とても読みやすくなっています。こういう本こそ中高生にも読んでもらいたい。差別や移民の問題など、きっとこれからもずっと考えなくてはならないことに対する目を養ってくれると思います。
ここのところ、読書会の本を落ち着いて読むことができなかったのですが、今回はやっとしっかり読めました。
どうも、仕事で訳している本、評価するために読む本、教材にするための本、イベントのために読む本、そんな本の読み方ばかりをしていたせいで、作品の中に入るための入口を見失っていたような気がします。
読書は「中に入らなきゃ」と改めて思いました。
(M.H.)