翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『平場の月』

『平場の月』(朝倉かすみ作、光文社)を読みました。

 よかった。というか、切ない。

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(装画の田雑芳一(たぞう・よしかず)さんつながりで、『いつか、僕らの途中で』も。)

 

『平場の月』は、帯にある「朝霞、新座、志木──。家庭を持ってもこのへんに住む元女子たち……」から始まる文章からして、すでに切ない。というか、かつて新座に暮らし、今は、朝霞、志木をはるか通りすぎて、東武東上線のはずれに暮らす身には、このブラーブだけでもう、なんだか涙が出てきます。

「家庭を持ってもこのへんに住む元女子たち」というのは、うーん、そういう括り方があるのか、と驚きました。じゃ、なにかい、家庭を持ったらこのへんを出ていって、西武線とか小田急線とか京王線とか、あっちに住むのが元女子たちのステータスってことなのかい?

「家庭を持ったからこのへん(よりずっと田舎)に住むようになった元男子」の自分は、どうすればいいのよ。埼玉なめんなよ、と。

 

 まあ、それは半分冗談ですが、50代のいろいろあった二人の男女の、でも、どこか純粋でやわらかな、気づかいにあふれる、空気を読んだ男女のやりとりの描写は、作者の技でしょう。彼らをとりまく今の日本の経済状況や労働環境、生活感が具体的に丁寧に描かれているのもいいです。

 いい、というか、このジリ貧感は変えたいよねえ。自民党政権が続くかぎり、よくはならないでしょう。選挙行かなきゃ。

 

(M.H.)