翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

日本翻訳大賞推薦

 うれしいことに、第二回日本翻訳大賞の一次選考(読者推薦)で、拙訳『ハーレムの闘う本屋』を推薦してくださった方がいます!

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 こんなにうれしいことはありません。(参照→ 日本翻訳大賞公式HP )

「ゆきこ」さん、ありがとうございます。推薦文の最後に、好きな言葉として、作中、詩集を読み終えた少年にルイス・ミショーがかけた言葉を引用してくださっています。このくだりをもう少し引用しておきます。

 

 おれは午後中ずっとそこにいて、その詩集を読みおえた。
「どうだい?」ミショーさんが言った。
「なにが? 感想文でも出せってのか?」
「本の感想じゃなくて、きみの気分はどうだ、と聞いている」
 この人はただ者じゃない。
   (『ハーレムの闘う本屋』69ページより)

 

 ここは、ぜひ、全国の学校の国語の先生に読んでもらって、読書感想文の指導に生かしてほしいなあと思います。「感想」文なのに、レジュメ書けって言われてるようで、生徒たちは苦しいだろうと思います。トラウマで、本を読まなくなる子どもって絶対いると思うんですよね。

 さすがミショーさん、わかってます。

 

 この本は、ほかにも読者のみなさんが、ブログや各種サイトに、好きなフレーズを引用してくださっていることが多くて、とてもうれしい。ちなみに、上の引用中の詩集というのは、ラングストン・ヒューズの『夢の番人』なのですが、この本は、そうした詩の引用もさることながら、作品全体にリズム感があって、印象に残る決め台詞的なフレーズがたくさん出てきます。それらしく訳すのは楽しくもあり、むずかしい作業でした。

 原文はこうです。

 

   I read all afternoon and I finish the book.
   "Well?" Mr. Michaux says.
   "Well, what? You want a book report or somethin'?"
   "How about a brain report?" he says.
   The man is something.
            ("No Crystal Stair", p.67)

 

 ミショーさん、うまいですね。ずばり、"a book report" と "a brain report" をかけことばにして切り返しています。本来なら、訳文でもこの対比がわかるようにすべきところなんでしょうが、それはむずかしいんで、まったくちがうアプローチで訳しました。そして、それを引用してくださった読者の方がいたということが、またとてもうれしい。

 

 選考委員である金原先生もおっしゃっていますが、推薦作の中に児童書やYAが少ないので、ぜひ、みなさん、このジャンルの好きな本を推薦してください。一般むけの純文学だけが対象じゃありませんからね。

(M.H.)