翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

着地感

 『エベレスト・ファイル』の校了間近のチェックの合間に、別の作品、メンフィスの夏の物語の通し訳をしているわけですが、それもあと15ページ。なぜか結末に近づくと、翻訳のスピードが遅くなる気がします。

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  もちろん、物語の冒頭を訳すのにも時間がかかるものですが、やがて少しずつスピードが上がり、結末に近づくにつれてまた遅くなる気がします。

    中盤までは、いわば読者に次々に情報を投げていくわけで、投っぱなしとはいいませんが、ある程度それに近い感じがあります。そして、それには一定のスピード感も伴うと思うのですが、エンディングが近くなると、それまで投げていたものを回収し、結論づけ、読者を納得させていく作業に入るので、訳すのに考慮すべき点が増えていて、時間がかかるのではないかと思います。「着地感」とでも言いましょうか。

    この訳語では、尻切れトンボじゃないか。読者はこれで、なるほどね、とうなずいてくれるのだろうか。いや、これはオープンエンドで、解釈は読者にまかせるような表現がいいのかもしれない。これは、納得というより、どんでん返し感を強調しよう、などと考えるわけです。

 

    いや、ちょっと格好をつけすぎました。そこまでは考えていないかも……。その前にまず、作者はどこに着地しようとしているのかを探らなければなりません。いずれにしても、作品の終盤には、こういう意識がないと訳文に力がなくなるような気がします。

 

    不時着しないように。時にはフワリと。時にはしっかりと、それぞれの文を着地させてやれるといいのですが。

(M.H.)