翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

へえ、もう30歳なのか。

 先々週でしたか、塾での授業後、昔教えた生徒たちが塾を訪ねてくれました。今年30歳を迎える立派な社会人男性3人です。

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 3人とも、高校時代と変わらないキャラクターを保ちながら、でも、話しぶりには社会人としての自信が感じられました。

 一人はアメリカの大学で映画を専攻し、今は広告会社で働くAくん。彼には、同じ塾の先生をしていた渡邉先生が、その後、映画『あん』の制作に携わってカンヌの赤い絨毯を歩いたことを報告。わが浦和レッズのスポンサーでもある自動車会社で働くBくんとは、ちょっとその話を。論文がネーチャー誌にも載った宇宙物理の専門家Cくんには、今わたしが訳している『宇宙』でにわかじこみの天文学用語を披瀝。

 高校生のころは、どうしても教えている教科の成績や合格した大学名から生徒を見てしまいがちですが、社会人になり、少し時間が経つと、いつも若い人たちのポテンシャルには驚かされます。キャラは変わらないのですが、へえ、あいつがねえ、こうなるんだ、ふーん、そんな仕事してるんだ、といううれしい驚きです。

 30歳といえば、自分は一番迷っている時期だったように思います。きっと、彼らの笑顔の裏には、いろいろ思い悩んでいることもあるのだとは思いますが、そこは30歳なりの社会経験で、笑顔でわたしの話につきあってくれていたのでしょう。彼らが、わたしの年齢になるには、まだ30年あります。あの勢いで進んでいけば、それぞれが相当のことを成し遂げられるように思います。

 いや、別になにも成し遂げなくてもいいのですが、彼らのこれからの30年が充実した歳月であることを願うばかりです。

 

 そして、こうした元生徒たちと会うたびに、大げさに言えば、自分が児童書やYA文学の翻訳をしている意義を強く感じたりもするのです。うまく説明できないのですが、若い人の力は信じていいのだし、その信頼をベースに自分は若い人たちにむけた本を訳していけばいいのだ、という感じでしょうか。


 たぶん、本を送りだす側は、読み手が信頼できることを時おり確かめておきたくなるのでしょうね。

(M.H.)