夏期講習中は通勤時間で本が少し読めます。
『コンビニ人間』(村田沙耶香著、文藝春秋)
芥川賞をとった作品です。家内が読みたいというので、珍しく買ってきました。おもしろかった。ジワジワと不安になり、考えさせられました。
主人公は、大学時代からずっとコンビニでバイトしている30代後半の独身女性です。そもそも、「コンビニ」「バイト」「30代後半」「独身女性」というレッテルで一人の女性を描写することに、今の日本社会が投影されていると思うのですが、そこをついた作品です。
コンビニ内の清潔感や明るさ、絶え間ない音、マニュアル化された言語などが、バイト経験者である(いや、受賞当日もシフトに入ってたらしい)作者ならではの緻密な描写力で綴られていきます。その描写に、どこか安心感を覚える自分が、主人公の古倉さんに重なっていきます。
そう、日常にすっかり溶けこんでいるコンビニという世界とそこでしか生きられない主人公に、最初は、奇妙な安心感を覚えるのですが、やがて、彼女の世間とのズレ方の異常さがジワジワと不気味に思えてきます。と、同時に、上のキーワードと対置されるであろう、「一流企業」「正社員」「結婚・出産」といった社会の同調圧力の息苦しさが浮かび上がってきます。
異常なのはどっちだ? そもそも社会的な機能を果たしているか否かで、人の人生を評するのはどうなのか?
装幀は、関口聖司さん。スピンの白が潔い。
(M.H.)