翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

翻訳書の読者を増やすために

『ダ・ヴィンチ・コード』などの翻訳を手がけていらっしゃる越前敏弥さんから問い合わせがあり、越前さんのコラム「出版翻訳あれこれ、これから」で、当ブログの出版翻訳の印税や契約についての記事を紹介していただきました。ありがとうございます。

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 越前さんも書いていらっしゃるように「印税の話というのは書きにくいし、あまり書きたくないのが本音」です。

 

 それでも、経験者がどこかに書いておかないと、新たに翻訳をやろうとする人たちは不安になると思うのです。いや、知るとかえって不安になるかもしれませんが……(笑)。 

 

 そして、越前さんが書いているように、「部数を増やすために、できる範囲で精いっぱい動くことが、いま翻訳者がいちばん注力すべきことだ」というのは同感です。「個々の本のプロモーションにかかわるだけでなく、翻訳書全体が少しでも多く読まれるための仕掛けをどうにか作れないか。翻訳者が翻訳だけしていればよい幸福な時代は終わったと思っている」という越前さんの言葉は耳が痛い。

 越前さんは講演や各種イベントの開催、出版翻訳に関する書籍の執筆などで、積極的に情報を発信し、翻訳書の読者を増やすための活動を続けていらっしゃいます。また、昨年から日本翻訳大賞が始まり、その審査員を務めているわが師匠の金原瑞人先生は、私費で、フリーブックレット「BOOKMARK」を発行しています。丸善の書店員さんが始めた「はじめての海外文学」フェアも今年2回目を迎えます。サウザンブックスによるクラウドファンディングを通じた翻訳プロジェクトも始まりました。

 どれも興味深い企画ばかりで、ささやかながら、わたしも寄稿したり、ファンディングに協力したりしています。越前さんや、金原先生のようにネームバリューがあれば、と思いますが、このブログで、広く読者の方に少しでも訳者の思いが伝わることを願ってあれこれ書いていきたいと思います。

 

 この頃よく思うのは、翻訳書が日本人作家の作品といちばん異なる点は、出版社が翻訳権をとってから出版するまでに宣伝する時間があるということ。翻訳者が翻訳を始めた時点で、すでに作品は存在しているのですから、その面白さを出版前から読者に認知してもらう活動をもってやってもいいんじゃないかと思うのです。

 インターネット、とくにSNSを活用すれば、ほとんどお金がかかりません。これだけ大量の出版物が出ている現在、このメリットを活かさない手はないと思うのですが、どうでしょうか。発売前は入校日を守るためにそれどころじゃない、という感じになりがちですが、そうしてようやく作った本は、書店内の翻訳書のために割かれたわずかなスペースに並べばいいほうで、読者の目にふれることさえなく消えてしまうこともあるのです。だから、発売日前から認知してもらい、発売日には多少なりとも読者がその本のことを知っていて、手にとることを待っている状態が作れないかと思うのです。

 

 たとえば、こんな情報を随時発信してはどうでしょうか。

「わが〇〇社は、イギリスの新鋭作家XXの作品、"AAA"の翻訳権をとりました!」

「訳者は『BBB』の翻訳でおなじみの△△氏!」

「現在、訳者は中盤を翻訳中。ちょっとその一部を公開!」

「日本語版タイトル『CCC』に決定! 発売日は◯月◯日!」

「限定20名様かぎり、プルーフを読んで感想を寄せてください!」(←これは欧米の出版社が実際にやって、発行部数を決めたりしています)

「芥川賞作家◇◇さんに読んでいただきました。絶賛です!」

 ……

 で、うまく行けば、発売日にはすでに予約が数多く入り、書店も注目して平積み。読者の目にふれて売れていく……。とまあ、そううまくいくわけはありませんが、検討の余地はあるのではないでしょうか。

 わたしも、このブログで、もう少し翻訳中の作品の中身について書きたいのですが、出版社さんの編集・宣伝の都合もあるだろうと思い、控えています。でも、こういう情報発信は、原作がすでに存在している翻訳書だからこそできることであり、また、翻訳者が直接関わることができるプロモーション活動だと思うのですが、どうでしょうか? 

 ああ、今度、編集者さんにちゃんときいてみよう。

 

    ただ、もっと大切なのは、良い翻訳をすること。さんざん宣伝しておいて、「なに、この翻訳。ひでえなあ」と思われたら元も子もありませんからね。

 

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(M.H.)