きょうも詩の紹介を。
『銃声のやんだ朝に』は、第一次世界大戦中にあった、イギリス・ドイツの最前線でのクリスマス休戦とサッカー試合をクライマックスに描くYA作品です。
この作品は、ほとんどの章の冒頭に詩が引用されています。第1章は、ジョン・マクレイの "In Flanders Fields" 。どこまでも十字架の列が広がる墓地と、赤いヒナゲシがゆれる映像や写真を見たことのある方も多いと思います。
フランドルの野辺にヒナゲシがゆれる。
十字架の列また列はわれらがしるし。
ヒバリたちは空に舞い、
雄々しくも歌いやまぬが、
その声は砲火にのまれて地にとどかず。
われらは死せり。ほんの数日まえまで、
生き、夜明けを覚え、赤い夕日を目におさめ、
愛し、愛されていたというのに、今、われらは伏す、
フランドルの野辺に。(『銃声のやんだ朝に』p.6 より)
これだけ読むと、戦死者を讃える美しい詩にも読めますが、ジョン・マクレイはこの大戦で戦死しています。引用された詩の作者は、ほとんど戦死しているか、あるいは戦死した息子の親なのです。
これはどうでしょうか。凄惨な戦場に一気に引きずりこまれます。
もしきみにも、息苦しい夢の中で、
男の体を投げこんだ荷馬車のあとを歩くことができるなら、
そして、苦痛に歪んだ白目や、
悪事に飽いた悪魔のようにうなだれた顔が見えるなら──、
馬車が揺れるたび、泡だつ血が
冒された肺の奥からゴボリと吹きだす音が聞こえ
癌にも似たおぞましいその血糊を見て、
忌まわしい不治の腫れ物から出た膿を
ふいに舌にのせられたときの苦しみを感じとれるなら──、
わが友よ、きみは捨て身で栄光を求める子らに
そんなにも熱意をこめて、あの言い古された嘘はつけないだろう。
「デュルケ・エスト・デコールム・プロウ・パートリア・モーリー(祖国のために死するは楽しく名誉なり)」
(同上、p.100-101 より)
ウィルフレッド・オーウェンの『デュルケ・エスト・デコールム・プロウ・パートリア・モーリー』という詩です。彼もやはり、第一次大戦で戦死しています。
『銃声のやんだ朝に』は、プロサッカー選手をめざしていた、イングランドのポーツマス出身の若者を主人公に、サッカーと戦争が描かれています。自分で訳した作品の中でもとくに思い入れのある作品です。機会があれば、ぜひ、読んでいただきたいと思います。
世界中がきな臭くなっている今、読む価値があると思います。
「わが友よ、きみは捨て身で栄光を求める子らに
そんなにも熱意をこめて、あの言い古された嘘はつけないだろう。
『祖国のために死するは楽しく名誉なり』」
(M.H.)