翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

好きなものを訳すと……

 さくまゆみこさんが、ご自身のブログに『ペーパーボーイ』を読んでの読書会のレポートをアップしてくださいました。自分が訳しながら感じていたことを、みなさんが感じてくださっていてとてもうれしかった。さくまさん、ありがとうございます。( 『ぺーパーボーイ』: バオバブのブログ )

 その中に、「本当に好きな作品を訳している、という感じがひしひしと伝わってくる」という感想を述べている方がいらっしゃって、確かに大好きな作品ですが、訳文のどういうところにその気持ちが出るんだろう、と思いました。

ペーパーボーイ (STAMP BOOKS)

 

  そういうことはあるだろうと思うのですが、作品が好きだと訳文はどうなるんでしょうか? たぶん、登場人物たちの感情表現や立ち回りの描写に、少し力が入った言葉を使ってしまうのかもしれません。下手すると、入れ込みすぎた無用に派手な訳文になってしまうこともありそうです。ちょっと心配になってきた……。

 でも、今まで、好きじゃない作品を訳したことがないので、淡々と訳すとどうなるのかわかりません。果たして、淡々と200ページも、300ページも訳せるんでしょうか? とてもできない気がします。

 そういえば、去年、『エベレスト・ファイル』の原作者、マット・ディキンソンと会った時、「翻訳は大変だろう。やりたくない仕事もあるんじゃないのか?」ときかれました。「いや、訳す作品は選んでやってるから、そういうことはないよ」と答えながら、そうか、世の中には、仕事だからと割り切って翻訳している人もいるのかもしれない、と思ったしだいです。文芸翻訳ではあまりないと思いますし、ないことを願いたいですね。それは原作にとって不幸なことでしょうから。

(M.H.)