翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

「〜だわ」問題

 木曜日、NHKで放送している「浦沢直樹の漫勉」を見ました。すでにシーズン4に突入している、漫画家密着映像+浦沢さんのインタビューですが、相変わらずおもしろい。この日は、恐怖漫画の伊藤潤二さんでした。

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 このシリーズ、今までとりあげられた漫画家は、ほとんど作品を読んだことがなくて、伊藤さんもそう。でも、毎回おもしろくてたまりません。要は、メイキングの面白さ。映画そのものより、メイキングのほうが面白かったりするじゃないですか。あれです。作家や翻訳者の裏話しかり。

 にやっとしたのは、伊藤さんのホラー漫画に出てくる美人の女性たちは、「〜だわ」でしゃべることが多い、という話。浦沢さんが、「やっぱりホラーは、〜だわ、ですよねえ」的な、一見わけのわからないことを言ってましたが、これわかるなあ。で、浦沢さん自身も、「〜だわ」がけっこう好きで、『YAWARA!』でも使っていたら、アニメ化された時、声優さんから「〜だわ、は言いにくい。こんなしゃべり方する人はもういない」と言われたそうです。

 でもね、そうなんです。なにがそうなんです、かといえば、「〜だわ」は、ステレオタイプの女性のアイコンではなくて、ホラー漫画における独特の雰囲気を作る小道具だったり、柔道漫画での女性の凛々しさを逆に演出する手段だったりするわけで、今時そういう女性がいるかどうかとはあまり関係がないのです。もちろん、英語ではいちいち、"she said" と言ってるのに代わる役目もあるのですが、そういう単純な役割語であるだけでなく、その女性がおかれた恐怖状態の危機感とか、片意地はってる感じとか、逆に強さの演出だったりもするわけで、やはり、割と「〜だわ」を愛用(笑)しているわたしは膝を打ったのでした。

 

 

 それにしても、伊藤潤二さんの漫画、怖いです。子どものころに読んだ楳図かずおの『蛇女』を思い出しました。番組でとりあげられたのは『恐怖の重層』という作品でしたが、今なら全部ただで読めます。

【 伊藤潤二 特設ページ | 無料ホラー漫画試し読みサイト"恐ろし屋" 】

 でも、怖いです。昨日、夜中にトイレに行くのがちょっと怖かった。ああ、こうしていても、あの気が遠くなるような細かい書き込みで醸成される恐怖感がよみがえってきます。ぎゃあああ──!

 

www.nhk.or.jp

 

(M.H.)