翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

「わたしはわたし、ぼくはぼく」

 これは、前回ご紹介した「BOOKMARK」12号の2号前、10号のタイトルでした。この号は、LGBTの特集号。LGBTは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの頭文字ですね。

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 自民党の杉田議員がとんでもない記事を書いて各方面から抗議を受けていますが、当然です。それを認めた自民党幹部の発言もとんでもない。

 これは考え方の問題ではなく、どんな人にも平等に人権を認めるかどうかという問題です。彼女の発言は差別発言であり、憲法に反しています。

 

「BOOKMARK」10号でとりあげられていた作品を紹介します。

01 『ゲイ短編小説集』O・ワイルドほか 作、大橋洋一 監訳(平凡社)

02 『[新装版]レズビアン短編小説集 女たちの時間』ヴァージニア・ウルフほか 作、利根川真紀 編訳(平凡社)

03 『あなたを抱きしめる日まで』マーティン・シックススミス 作、宇丹貴代実 訳(集英社)

04 『リリーのすべて』デイヴィッド・エバーショフ 作、斉藤博昭 訳(早川書房)

05 『ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン』ジョン・グリーン/デイヴィッド・レヴィサン 作、金原瑞人/井上里 訳(岩波書店)

06 『キャロル』パトリシア・ハイスミス 作、柿沼瑛子 訳(河出書房新社)

07 『トゥルー・ビリーヴァー』ヴァージニア・ユウワー・ウルフ 作、こだまともこ 訳(小学館)

08 『二つの旅の終わりに』エイダン・チェンバーズ 作、原田勝 訳(徳間書店)

09 『トランペット』ジャッキー・ケイ 作、中村和恵 訳(岩波書店)

10 『君に太陽を』ジャンディ・ネルソン 作、三辺律子 訳(集英社)

11 『わたしの本当の子どもたち』ジョー・ウォルトン 作、茂木健 訳(東京創元社)

12 『闇の左手』アーシュラ・K・ル・グィン 作、小尾芙佐 訳(早川書房)

13 『ジョージと秘密のメリッサ』アレックス・ジーノ 作、島村浩子訳(偕成社)

14 『ぼくには数字が風景に見える』ダニエル・タメット 作、古屋美登里 訳(講談社)

15 『ブルーは熱い色』ジュリー・マロ 作、関澄かおる 訳(DU BOOKS)

16 『"少女神" 第9号』フランチェスカ・リア・ブロック 作、金原瑞人 訳(理論社)

 

 単純なLGBTの分類に入らない登場人物が出てくる作品もあります。また、この中には児童書やYAとして書かれたものがいくつもあって、海外の作家・編集者の意識の高さを感じさせますね。

 

 この号でとりあげていただいた、拙訳『二つの旅の終わりに』は、バイセクシャルの少年とゲイの少年が登場しますが、どちらもとても魅力的な人物。舞台はオランダですが、とてもこのあたりの考え方は進んでいます。日本の後進性は目を覆いたくなるばかり。さらにこの作品には尊厳死の問題も出てくるし、第二次大戦中のオランダ人女性とイギリス人兵士の恋の物語と、現代のイギリス人高校生の主人公をからめて、もりだくさんの500ページですが、ぐいぐい読めます。

 原作は1999年に発表され、英カーネギー賞を受賞していますし、また、原作者のチェンバーズ氏は、この作品を書いた直後に、その作家活動に対して国際アンデルセン賞を受賞しています。

 

 

 ちょうど、今日、6刷の見本が届きました。2003年に訳本が出てから15年、少しずつ売れて1万部を超えました。これだけの大作を1万人の人が、いや、図書館で借りている人もいるでしょうから、それ以上の読者が読んでくださっていると思うだけでとてもうれしい。

 さらに息長く読まれますように。

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(M.H.)