翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

国の形を選ぶ。

 チリの詩人パブロ・ネルーダの子ども時代を描いた作品、『夢見る人』(パム・ムニョス・ライアン作、ピーター・シス絵、拙訳、岩波書店)は、ネルーダの夢見がちだった少年時代から、社会問題への意識の芽生えと、父親からの独立を描いています。

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 この挿絵の愛らしい少年は、その後、詩人となってノーベル文学賞を受賞するだけでなく、チリの領事として内戦下のスペインに赴任、スペイン人民戦線に共感し、帰国後は共産党員となってアジェンデ政権を支持し、その後、ピノチェトの軍事政権に反対し、最後は家宅捜索を受けて不審な死を遂げます。

 

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(ネルーダの伝記 表紙より)

 

 スペイン内戦は、フランコ将軍率いるファシスト反乱軍の勝利に終わり、その後、フランコによる独裁政治が1975年まで続き、今も、その爪あとはスペイン人の心に深く残っているといいます。

 スペイン内戦には、ジョージ・オーウェルや、拙訳『ハーレムの闘う本屋』にも登場するアメリカの黒人詩人ラングストン・ヒューズ、『誰がために鐘は鳴る』でスペイン内戦を描いたヘミングウェイなど、世界中の文学者が、共和国側を支持する国際義勇軍に参加したり、取材したりしました。

 彼らはあまりにもナイーヴであり、また共和国政府があまりにも社会主義を理想化していた面は否めませんが、結局は、当時の欧州の独裁者たち、ヒトラー、スターリン、ムッソリーニ、フランコの力によって潰されたといっていいでしょう。そして、この四人の独裁者は、当時はそれぞれの国の多数の国民が、英雄として讃え、支えていたことも事実なのです。

 彼らが用いた大きな戦術は言論統制です。異論の封殺です。報道の自由の制約です。表現の自由への抑圧です。今の自民党政権は、マスコミ報道に明らかに規制をかけ、菅官房長官の記者会見に如実に現われているように、御用記者だけを優遇しています。参院選が来週に迫っているのに、テレビ番組表を見ても、選挙報道は驚くほど少ない。

 

 危ないです。

 

 国の形を選ぶのは国民ですが、国家は権力機構を維持するために、情報を統制し、国民が選べないようにしてしまうのです。それは今までの歴史が証明しています。香港の若者たちが命がけで守ろうとしているものは何か、考えなければなりません。

 

 選べるうちに、選びましょう。

 

(M.H.)