翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『マーティン・ルーサー・キング──非暴力の闘士』

 まずは、検察庁法の改悪に反対することを表明しておきます。

 この件は前から気にしていますが、黒川検事の任期延長のゴリ押しからの流れはめちゃくちゃです。少しでも論理的にものが考えられる人なら、おかしいことはすぐわかる。というか、これまでのやりとりは茶番としかいいようがありません。国会論戦は言葉尻をとらえてのやりとりになってしまっていますが、ちょっと引いて考えれば、そもそもこんな重箱の隅であらそっていること自体がとんでもなくおかしいことがすぐわかります。

 検察庁は行政府ですが、立件するかしないかを決められるという意味で、その他の行政府とは少し異なるがゆえに、国家公務員法とは別立てで、検察庁法によって検事の任期を定めていました。その上、今回の法案では、時の内閣の決定で任期延長ができ、しかも、その事由のひとつに、裁判の継続性のために必要と認められる場合、という項目があり、その具体的な内容は、当該裁判に影響を及ぼすので開示できないのです。つまり、延長理由はあいまいのまま、内閣の胸ざき三寸で、総理大臣をも起訴する権限をもつ検事の任期を恣意的に延長することができるのです。これだけでとんでもない改悪なのに、それを、このコロナ禍において行おうとするのは、火事場泥棒だし、安部総理に、なにか急ぐ理由があるとしか思えません。

 

 長くなりましたが、本題です。

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 今さら感もありますが、2018年に出た新しい本です。キング牧師の絵本を翻訳する関係もあり、読みました。ぼんやりしていたことが、少しわかりました。

   ひとつは、非暴力主義のこと。

 非暴力って、やられっぱなしじゃないか、となんとなく思っていましたし、それで社会が動くんだろうか、と思っていました。しかし、じつは相手に弾圧の口実を与えず、社会の目を問題の本質からそらさないための戦略であり、しかも、戦術面でも、暴力に訴える参加者が出ないように周到に準備していたのでした。しかし、結局、彼の死によって、ようやく大きくアメリカ社会が動いたことは、悲しいことでもあります。演説の巧みさは有名ですが、この本でも、淡々と(わかりやすく)彼の生涯を描いてきた記述が、死に近づいたころの、覚悟がにじみでた演説の引用に、不覚にも涙が出てしまいました。

 岩波新書読んで泣いたの初めてです。というほど、読んでませんが……。

 

『ハーレムの闘う本屋』を訳した時に、キングとは少し立場を異にするマルコムXや、ルイス・ミショーの視点が少しわかりました。今、ちょうど、マンデラ関連の本の仕事もしているのですが、人種的に差別されてきた人々の闘いについて知れば知るほど、ミショーさんの言葉ではありませんが、「知識こそ力」だと感じます。

 知らずに現状に甘んじることが一番まずい。知って、理解して、考えて、できることをやろうとするのが大切だと感じます。日本だって、ぼーっとしていると、おかしな方に行ってしまいかねません。今はとても大切な時期だと思います。

 

『ハーレム……』は、川越の勉強会(といっても、今は zoom ですが)で、改めて読んでいます。

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(M.H.)