翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『土曜日はお楽しみ』

 今日は久しぶりに、川越のイングリッシュブルーベルさんで「古典児童書を読む会」がありました。課題本はエリザベス・エンライト作、谷口由美子訳の『土曜日はお楽しみ』。

 これはとてもおもしろく読めました。もう80年も前のアメリカで書かれた作品ですが、きょうだい4人の小さな冒険がとても愉快に、でも、子どもの感情を鋭く捉えて描かれています。

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(コロナ中ということもあり、おやつはなし、ドリンクは梅ジュース、酢、ホーリーバジル、ドクダミ入りのホットドリンク。肌寒い雨の日に、おいしゅうございました。)

 

 『ツバメ号とアマゾン号』や『若草物語』のような、ほかにもあるらしいですが、きょうだい4人の物語です。この作品は、個性的な4人が、それぞれ一人で街に出かけていって、いろいろチャレンジして、失敗して、楽しんで、人と出会うのがいい。各自の冒険という要素があるので、登場人物がきわだち、しかも、その途中に、作者の鋭い子ども時代の心理への洞察が、各人の心の声となってはさまれ、これが絶妙でした。4人でわいわいする場面もありますが、きちんと一人ひとりが描かれています。

 谷口さんの翻訳で、2010年のこれが初訳らしいのですが、それまで紹介されていなかったのがふしぎなくらいいい作品でした。谷口さん、きっと、この作品大好きなのだろう、というのが伝わってくる生き生きした訳文です。

 1941年という大戦中にこんな、ある意味、余裕のある本が出版されるのだから、当時のアメリカの国力や地政学的な位置がよくわかります。こういう作品が新しく出てきてほしいけれど、今のアメリカ人には、そして日本人にも書けない作品なのかもしれません。白人の中流家庭の、ある意味、のんきなドタバタは、当事者の子どもや、それを読む読者の子どもたちにとっては幸せな体験なのですが……。こういう幸福感の味わえる児童文学は、新しく書けないものでしょうか? 生活の中の小さな冒険を。ファンタジーのような大冒険ではなく……。

 人種や貧富の差を意識せずに読める児童文学は、それこそファンタジーになってしまったのでしょうか。ファンタジーの中でさえ、PCが考慮されているように思うし……。となると、主人公は動物しかないか……。いい作品だけに、いろいろ考えさせられました。古典児童文学の価値は、こういうところにもあるのでしょうね。

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 お店の前の植物たちは涼しそう。

(M.H.)