翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『ネルソン・マンデラ』9月9日発売!

『ネルソン・マンデラ(信念は社会を変えた!シリーズの指針として)』(セロ・ハタン&ヴァーン・ハリス著、拙訳、あすなろ書房)の見本が届きました。いい写真、きれいな装幀です。見本が届いた時が、いつも一番うれしい。

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 少し中身の紹介を。

「信念は社会を変えた!」という、現在各界で活躍している人たちに、リーダーシップについてインタビューしたシリーズの一冊です。しかし、マンデラはすでに亡くなっているので、彼の部下で、今も南アフリカでマンデラ財団の要職にあるセロ・ハタン、ヴァーン・ハリスの二人が、マンデラのリーダーシップの基盤を探り、書いたものです。このシリーズに、マンデラ財団が関係していることもあり(収益の一部が財団の活動に使われる)、「シリーズの指針(guiding principles)」とされています。

 ふつう、マンデラに関する書物は、彼の活動家時代から、長きにわたる収監の時期、そして、釈放され、大統領になり、南アの改革を進め……、という、波乱万丈の一生を描く作品か、あるいは、膨大に残されている彼の言葉を集めた書物か、どちらかです。しかし、この本は、「マンデラは、なぜあのような稀有なリーダーになり得たのか?」という疑問に答えようとしたもので、執筆者たちが検討の結果たどりついた結論は、彼の日常生活の中にこそその秘密がある、というものでした。

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 目次の写真を挙げておきますが、このような切り口で、マンデラのいわば生活習慣をまとめることによって、偉大な人の平凡な、しかし、強い意思に支えられた日常をあぶりだします。そして、執筆者たちは、「これはわれわれにも真似ができるものだ」と言っているのです。いや、言うは易し……、だとは思いますが、たしかに、ひとつひとつはやってできなくはないことばかりでした。(三日くらいはできる、と思います。何十年もやり続けたマンデラさんは、やはり凡人ではないのですが。)

 しかし、この本の本当の良さは、一見リーダーシップのハウツーもののようでありながら、他のマンデラ本ではできなかった、ネルソン・マンデラを新しい視点で分析した人物論になっていることでしょう。一読いただければ幸いです。マンデラという人間の底力のようなものを感じ取れると思います。

 

 

 また、翻訳面では、『キャパとゲルダ』でもお世話になった、勉強会の仲間、小宮由紀さんとの共同作業で、訳語の選択・決定や、事実関係の確認、最後にはレイアウトの改善までできたことが大きな収穫でした。作業中の訳文への印の付け方なども工夫ができたし、別にノンフィクションばかりやりたいわけではありませんが、また、少しこつがつかめた気がします。

 

 あ、このシリーズは児童書ではなく、一般向けです。1,000円+税で100ページちょっと。原書のスタイルを生かしたスタイリッシュなブックデザインは、毎度お世話になっている、城所潤さん、大谷浩介さんです。

 どうぞよろしく。

www.hanmoto.com

 

 

 同シリーズの今後のラインナップは以下の通り。

①「グレタ・トゥーンベリ」(既刊)

②「ネルソン・マンデラ」(本書)

③「ルース・ベイダー・ギンズバーグ」

④「ステフィン・カリー」

⑤「グロリア・スタイネム」

⑥「ブライアン・スティーブンソン」

 

 スティーブンソン、翻訳中です。年内に出せると思います。

 

(M.H.)