翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『おれの墓で踊れ』映画化!

 イギリスのYA作家で児童文学の研究者でもあるエイダン・チェンバーズさんの作品、『おれの墓で踊れ』が、フランスの映画監督、フランソワ・オゾンによって映画化されました。それが『Summer of 85』のタイトルで、8月20日、日本でも公開されます。

summer85.jp

 このころには映画館にふつうに入れるようになっていてほしい。

『おれの墓で踊れ』は、文字通り、"Dance on My Grave" というのが原題。この映画はフランス語で撮られていて、そのタイトルが "Été 85” で、それを英語に直したのが "Summer of 85" で、日本では英語のタイトルで公開される、というわけです。

 あらすじなどは、上の公式サイトにくわしく書かれていますので、ぜひそちらを。チェンバーズがこの作品を書いたのが1983年らしいので、当時としては、すごく進んでるというか、少年同士の恋とその破局を描く、といえば簡単すぎますが、そういう作品です。

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 また、上の書影の帯には、国際アンデルセン賞受賞と書いてありますが、初版が出た時は、まだとってないし、これを児童書のくくりで出版した徳間書店のみなさんもえらい、と思います。正直、わたしにはピンと来ないところも多いのですが、日本でもファンがたくさんいて、通称「おれ墓」というらしい。まあ、墓の上で踊る、というだけで、えっ、という感じでキャッチー。

 装幀は何度かお世話になっている鳥井和昌さん。抜群のビジュアルです。ブレた写真の疾走感とか、血を思わせる、それこそ「踊っている」タイトルの処理とか……。

 

 出だしはこんな感じ。

1/オレはどうかしている。
 ずっと前に気がつくべきだった。
 死が趣味だなんて、どうかしているに決まっている。
 勘違いしないでくれ。どうかしてはいるかもしれない。だが狂ってはいない。
 オレはくるくるぱあでも、人を殺してまわるような異常者でもない。
 死体には興味がない。興味があるのは〈死〉なんだ。大文字の。
 死体は怖い。オレをひどい目にあわせる。
 訂正:ある特定の死体がオレをひどい目にあわせた。
 今書いているのはそのことだ。
 ただし、あんたが知りたければの話……
(『おれの墓で踊れ』エイダン・チェンバーズ作、浅羽莢子訳、徳間書店、p.11)

 翻訳は、浅羽莢子さん。読みやすい訳文で、いわゆる直訳っぽいなあと感じることもあるのですが、じゃあ訳せるか、というと、そういう単純なものではなさそう。

 いわゆる「浅羽節」なのですが、ぱっと開いたページから抜き出すと、

「ふざけんな!」
 運転手は酔っぱらいを突き飛ばし、やわらかいトマトの詰まったビニール袋のような音と姿で地面にくずおれるにまかせ、車の中に戻ろうとしかける。

 原作の比喩も面白いですが、こういうの、そのまま訳すと読みにくくなることが多いのですが、長いセンテンスなのに一気に読めます。(『おれの墓で踊れ』p.112)

 と、その直後のセリフでは、

「たいした玉だぜ、こいつは」と、オレなど観客にすぎないかのように語りかける。バリーに向かっては、「悪知恵の働く小僧だ。おれもずいぶんいろいろ聞いてるが、こいつにはシャッポを脱ぐぜ」(同上)

 「たいした玉」「シャッポを脱ぐ」は、たぶん、もう使えないかなあ。というか、この当時でもYAでは使うのを迷うところだと思いますが、これはこれでいい感じ。そもそも、浅羽さんを訳者に起用した編集者さんのセンスがいいですよね。

 読み直してみようかと思っています。

 

 いろいろ書きたいことがあるのですが、とりあえず、今日はこのあたりで。

 ゴールデン・ウィークですが、あんまりそういう感じがしない。今日は、大人しく仕事してます、たぶん。

(M.H.)