翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『チャンス──はてしない戦争をのがれて』、本日発売!

 訳書が出ました。

『チャンス──はてしない戦争をのがれて』(ユリ・シュルヴィッツ文・絵、藤田優里子翻訳協力、小学館、1600円+税)です。

『ゆき』、『よあけ』、『おとうさんのちず』などで知られている絵本作家、ユリ・シュルヴィッツが、第二次大戦中〜戦後の子ども時代の暮らしをふりかえり、文章と絵で綴った自伝です。

 ポーランド生まれのシュルヴィッツさんは、両親と三人で、ナチスによるユダヤ人迫害を逃れ、当時のソ連に逃げますが、厳しい気候や貧しい生活で何度も病にかかり、食べるものにもこと欠く極貧生活を強いられます。北極圏に近い収容所から、中央アジア、戦後はポーランドからパリへと移り住むあいだ、それでもシュルヴィッツ少年は、絵を描くことだけは忘れませんでした。

 困窮を極めた暮らしぶりですが、子どもだった当時のウリ(本文内では「ウリ」と表記。正確には「ウーリー」が近い発音です)の視点で、ユーモアを交えて書かれた文章と豊富な挿絵が救いです。今もニューヨーク在住でご健在のシュルヴィッツさん。国境を超えて各地を転々とする様子は、ヨーロッパという地域の複雑さや豊かさ、そこで暮らす人々のしたたかさや苦労をしのばせます。ウクライナ紛争の背景も考えてしまいますね。

 

 これが表紙とカバー裏。表紙のイラストは、シュルヴィッツさんが描いたアルハンゲリスクの雪景色です。

 

 下の写真が原書のカバー。

 事実確認やいろいろな国の言葉を調べるのがけっこう大変でした。勉強会の仲間でもある藤田優里子さんのチェックに、ずいぶん助けられました。最近、ほとんどどなたかに訳文チェックをお願いしています。もう、一人では怖くて訳せないかも……。

 

 

 シュルヴィッツさんの絵本。左は『おとうさんのちず』、右が『よあけ』の原書。『おとうさんのちず』のもとになったエピソードも出てきますよ。

 

 なにがどうして「チャンス」なのかは、読んでくださればわかります。

 ぜひ!!

(M.H.)