翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

パム・ムニョス・ライアン、ALA功労賞受賞スピーチ

 ホーンブック・マガジンの7/8月号をめくっていたら、アメリカの作家、パム・ムニョス・ライアンさんの、ALA(全米図書館協会)の2024年度 Children's Literature Legacy Award(児童文学功労賞とでも訳すのでしょうか?)の受賞インタビューが載っていました。6月30日のサンディエゴでの授賞式でのスピーチの書き起こしです。

 ホーンブックのサイトから読めます。こちらから↓

 https://www.hbook.com/story/2024-childrens-literature-legacy-award-acceptance-by-pam-munoz-ryan

 この賞は、2017年までは、『大草原の小さな家』のローラ・インガルス・ワイルダーの名前をとったワイルダー賞として児童文学に寄与した作家に贈られていたのですが、ワイルダーのネイティヴ・アメリカンの扱いが問題視され、2018年から上記のような名称に変更されたそうです。

 歴代の受賞者は、1954年のワイルダーから始まって、E.B.ホワイト、モーリス・センダック、ヴァージニア・ハミルトン、エリック・カール、ローレンス・イェップ、ジャクリーン・ウッドソン、ウォルター・ディーン・マイヤーズ、ケヴィン・ヘンクス、などなど、そんなに読んでないわたしにもなじみのある名前がずらりとならんでいます。

 

 ムニョス、というミドルネームから想像がつくように、ライアンさんは、おばあさんがメキシコからの移民で、3世代目にあたります。受賞スピーチの中で、妹やいとこたち、そして、カリフォルニアのサンホアキンバレーの暑さから逃れるために、冷房のきいた小さな図書館の分館に通うようになり、やがて本好きになっていった経緯にふれています。

 スピーチの中で、彼女が『夢見る人』でとりあげた、チリのノーベル賞作家パブロ・ネルーダの幼いころの逸話にふれています。ネルーダがまだ幼ないネフタリ・レジェスだったころ、塀の穴から、向こう側にいる顔も見えないだれかと、大事にしていたマツカサをヒツジのおもちゃと交換したという逸話です。このエピソードはネルーダの自伝をもとにしているのですが、わたしもこの作品の中でもっとも心の残っているお話です。

 そして、ライアンさんは、そのエピソードに重ねて、スピーチの中でこう言っています。

 わたしたち画家や作家は、向こう側にだれがいるのか知らないまま、塀の穴から自分たちの作品を差しだします。しかし、わたしたちの書いた本を手にとってくれる人がいるかどうかはわかりませんし、それがいつのことになるのかもまったくわかりません。果たしてその本が、読者の心を動かし、目を啓かせ、腹の底から笑わせ、思わず胸に抱きしめて、その後も長く愛される一冊になるかどうか、まったくわからないのです。読者を感動させられるのか、それとも怒りを買うのか、はたまた、カルト的な人気を博するのか、見当もつきません。わたしたち作家は、「今」という美しい暴君に拘束されたまま、綴り、描きます。未来を望み、まだ見ぬ交流の兆しを心から願って、作品を送りだすのです。

 

 

 日本に紹介されているライアンさんの本。

『マリアンは歌う』(ブライアン・セルズニック絵、もりうちすみこ訳、光村教育図書、2013)

『メキシコへ わたしを さがして』(猫野ぺすか絵、神戸万知訳、偕成社、2017)

『夢見る人』(ピーター・シス絵、原田勝訳、岩波書店、2019)

『明日の国』(中野怜奈訳、静山社、2022)

 

 それほど作品は多くありませんが、とても丁寧に書く作家さんのような気がします。日本でもっと評価されてもいいかも。ニューベリーの最終候補作になった "Echo" は、まだ翻訳されていませんしね。今年、73歳。まだ新作の期待もあります。

 

(M.H.)