翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

カチャ・ベーレン、『わたしの名前はオクトーバー』

 というわけで(承前)、カチャ・ベーレン作品の紹介です。

『わたしの名前はオクトーバー』(こだまとこも訳、評論社)。原題は "October, October"。2022年のカーネギー賞受賞作です。最初に原題を見た時、変わったタイトルだな、これはなにかあるぞ(?)と思ってとりよせました。

 原書の表紙はアンジェラ・ハーディングというイギリスの画家(版画家)ですね。HPがとても充実しているので、ぜひのぞいてみてください。イングランドの自然をテーマに作品を作っています。タイトル部分はうまく写せてませんが、赤銅色の箔押しです。きれい。

https://angelaharding.co.uk/

 

 オクトーバー、というのは変わっていますが、主人公の11歳の女の子の名前です。エイプリルとか、ジューンとかは聞いたことあるけれど、セプテンバーやオクトーバーという名前は聞いたことがない。オクタヴィアヌス、とかいうローマの皇帝がいた気がするけれど……。

 

 扉の比較もどうぞ。

 日本語版のイラストは祖敷大輔(そしきだいすけ)さん。これもいいですね。カットもあちこちに。見返しやカバーをとった表紙にもイラストがある。祖敷さんのHPはこちら。https://soshikidaisuke.com/

 

 というわけで、思わずビジュアルから入ってしまいましたが、こういう力のある、一度見たら忘れられないイラストを描かせるだけの力が作品にあると思います。オクトーバー、というお父さんと自然の中で、ほぼ自給自足生活をしている少女の独白なんですが、原文はコンマがとても少なくて、一文が長い、まさにひとりごとのような文章。そして、会話部分が "  " で囲われてなくて、イタリックになっている。だから、登場人物の発話なんだけど、やっぱり主人公の耳や頭を通過して読者にとどけられている感じがするんです。

 訳者のこだまともこさんは、原書の雰囲気を保って日本語に訳されています。発話部分は行替えも、カッコもなく、太字にしてあるだけ。これは『ぼくの中にある光』でも踏襲しました。原作はやはり同じ体裁なので。

 物語は、そのオクトーバーのお父さんがけがをして、別れたお母さんと町で暮らさなきゃならなくなって……、という展開なのですが、何より、文章がおもしろい。おもしろい、というか、究極の一人称というのか、思考や感情の流れがそのまま活字になってならんでいくような、といえばいいのか……。読んでるこちらの感覚が浮遊してオクトーバーの頭の中と混じり合うというか……。

 とにかく読んでみてください!

 

(M.H.)