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翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『オ・ヤサシ巨人BFG』

本・映画 翻訳の周辺

 昨日は古典児童文学を読む読書会でした。課題本はロアルド・ダール作、中村妙子訳、クエンティン・ブレイク絵、『オ・ヤサシ巨人BFG』です。ちょうど映画が公開されたこともあっての課題本でした。

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  久々に読んだダールはやっぱりおもしろい。ダールの本は、サラリーマンをやめて翻訳の勉強をしはじめたころによく原書で読みました。英語がやさしいし、語彙の少ない自分でもぐいぐい読めて、しかもユーモアにあふれ、大人向け、子ども向けを問わず面白い。『チョコレート工場の秘密』、『おばけ桃の冒険』、『チャーリーとガラスのエレベーター』、『南から来た男』など、大好きな作品がたくさんあります。

 子どものころには読んでなくて、30を過ぎてからほとんど原書で読んだのですが、翻訳は田村隆一さんや柳瀬尚紀さんのものが多い。しかし、この『BFG』はロザムンド・ピルチャーの訳で名高い中村妙子さんの訳です。ちょっと上品な感じの、でも軽いタッチで、ダジャレの多いこの作品をうまく翻訳されていると思います。ぎくしゃくしているところもさすがにあるのですが、あれだけ言葉遊びが入っていると、だれがやっても、これ以上の仕上がりにするのはむずかしいでしょう。

 ちなみに、このBFGはしょっちゅう言い間違いをするのですが、原文の "human beings" の言い間違え、"human beans" が、訳文では「ニンゲンマメ」になっているのは偶然の妙ですね。ここはきっと、わたしもそう訳したと思います。"Intel Inside" が「インテル、入ってる」と訳されているのに匹敵します。でも、あとはきっと、中村さん、苦労の連続だったと思うのですが、メンバーのお一人が中村さんに翻訳を習っていた関係で、今回の読書会に備えて「翻訳で苦労されたところは?」という質問を送ったところ、90歳を過ぎてなお現役翻訳家の中村さんのお返事は、「苦労したおぼえはありません」とのことでした。すごい。

 原作者のダールもノリノリでダジャレ連発、訳者の中村さんも逐語訳では無理なところは、柔らかな発想で言葉遊びを乗り切っているようでした。でも、ダールのすごいところは、部分部分ではノリノリの感じでも、全体のバランスがこれまた絶妙で、でも、その計算を細部では感じさせない「楽しんで書いてる」感が横溢していること。読者は大人も子どももこのバランスにやられてしまうのです。

 そう、楽しいだけじゃなくて、主人公のソフィーは孤児だし、BFGたち巨人にも家族はいません。巨人たちは人間の子どもをぱくぱく食べてしまいますが、それを非難したソフィーに、一人だけとびきりまずいおばけキュウリを食べて生きているオ・ヤサシ巨人BFG(Big Friendly Giantを「オ・ヤサシ巨人」と訳すのは、できそうでできない…)は、「互いに殺し合うのは人間だけだ。巨人はそんなことはしない」と答えます。

 夢を捕まえてきて瓶に入れて保管してあり、あれこれ混ぜて自在に夢を作れるところもいいなあ。そうそう、女王様もふつうに出てくるんですよ。ブレイクの絵は、明らかにエリザベス女王の若いころのお顔です。ブレイクの絵はこれまた絶妙。さらさらと描いたようでいて、デッサンは狂っていない。ソフィーがBFGの耳に乗るのもいいですねえ。乗ってみたい。(と、言ったら、汚いんじゃないか、とおっしゃる方が。夢がないなあ……(笑))

 

 ダールの両親は北欧生まれで、英語はネイティヴではなかったそうです。パイロット経験や、ガーデニングの話など、ダールという作家そのものの話がずいぶん出ました。

  この日の飲み物はもちろん紅茶、そして、BFGの主食であるキュウリをはさんだパン。物語の中ではむちゃくちゃまずいキュウリですが、おいしゅうございました。

 

 ところで、図書館で借りていった上の写真の本。よく見ると、どこかおかしい。ほら、クエンティン・ブイレク絵……。

 

 え、まだ、気づかない? いや、じつは、わたしも言われて初めて気がつきました……。ああ、恐ろしい……。

 

(M.H.)