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翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

『ウィズダム英和辞典 第3版』(三省堂)

翻訳の周辺

 "the land"

 昨日はこの単語に苦しみました。何度辞書の語義を読み返したことか。

 ちょっとかっこつけたセリフの中なので、物理的な土地を指しているわけではないことはわかるのですが、前後の単語とのつながりをうまく収めようとして、訳語を決めるのに四苦八苦。

 細かいことは書けませんが、その、何度も読み返していた辞書たちの話を少し。

 

 下は、いつもメイン辞書のひとつとして使っている、三省堂の『ウィズダム英和辞典 第3版』のWeb版のスクリーンショットです。

 

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  この辞書が気に入っているのは、紙の辞書を買ったら無料で Web版が使えたことと(紙の辞書は職場の塾においてある)、基本語彙の文法説明が丁寧なこと、そして、この land の見出しでわかるように、単に日本語の訳語をあげるだけでなく、語義の違いを具体的に説明していることです。

 たとえば、1.では不可算名詞であることがわかりますし、「〔時にthe〜〕(海に対して)陸、陸地。」さらに、「空に対しては……」と続きます。同じように、2.3.4.では、「特定の用途のための」とか、「特別な感情を抱く対象となる」とか、こういう説明がとてもありがたい。4.の「(都会に対して平和な)田舎」という語義も丁寧ですね。「平和な」と入っているところがいい。可算・不可算の別も語義の見分けに役立ちます。

 同じ land を調べると、最近の辞書ですから、『ランダムハウス』や『リーダーズ』でも、同様の(  )つきの説明がありますが、the の使用や可算・不可算の別が明記されていません。『ウィズダム』は学習用の中辞典なので、文法や語法、似た単語の使いわけが書いてあって助かります。もちろん、収録語数や単純な語義の多さでは「ランダム」や「リーダーズ」にはかなわないし、串刺し検索には利用できないので(たぶん)、いろいろと辞書を組み合わせて使うようにしています。

 また、『Collins Cobuild』も好きな辞書で、ほかの辞書にはない切り口で説明してくれていることがあります。例文もとても適切。日本の辞書では見つからないのに、この辞書だと、用例がドンピシャのことがしばしば。とくに形容詞の説明は秀逸です。land は名詞ですが、たとえば、

4 If you talk about the land, you are referring to farming and the way of life in farming areas, as opposed to in the cities.

などと載っているのです。"the way of life in farming area" まで書いてあるとイメージがはっきりします。もちろん、『ランダムハウス』や『リーダーズ』にも、ちゃんと「田園生活」という語義が載っているのですが、こうして文章で説明されると腑に落ちるのが不思議。

 

 というわけで、翻訳中の作品はすでにクライマックス、あと10ページほどでエンディングなんですが、ここへ来て、まあ翻訳の進みが遅いこと。ガタ落ちです。セリフによる盛り上がりと情景描写のスピード感を両立させるのが大変。最後の20ページ、30ページがうまくいかないと、この作品の価値が落ちてしまうので、慎重に、慎重に……。

(M.H.)