岡山に留学していた大学生クリスくん。すでにアメリカに帰国していますが、先日、東野圭吾の英訳をしている翻訳家のインタビュー記事を教えたら、それを読んで「翻訳したくてたまらなくなった」というメールが帰ってきました。なるほど、そう来たか。
この記事の中で、日本の小説を30冊近く翻訳しているアレクサンダー・スミスさんは、たしかに日英翻訳の面白さや素晴らしさを語っているのですが、難しさも力説していて、この記事読んで、「よーし、やるぞー」って思うのは、ほんとうに翻訳の魅力にはまっているんだなあと思いました。
で、クリスくん、芥川賞受賞作『コンビニ人間』を少し訳してみたそうです。読むのはやさしかったけれど、訳すのはむずかしい、と。(あ、そうそう、彼は日本語能力試験の最上位カテゴリー「N1」にも、見事合格したそうですから、日本語読解力は高レベルです。) どんな英訳になったのか、読んでみたい。
ただ、彼曰く、一番の難問が、日本の「コンビニ」とアメリカの "Convenience Store" の実態が相当ちがうことだそうです。アメリカのものは、日本の「コンビニ」ほど清潔感がなくて、この小説のバックグラウンドとなっているコンビニのあの昼夜を問わず、明るく、清潔で、機械的で、機能特化した雰囲気が、英語の読者には伝わらなくなってしまうらしい。そうなると、主人公の設定も成り立たない……。悩ましいところです。たしかに、日本のチェーン店はどこまでも突き詰めるからなあ。
クリスくん、いつか一部でもいいので、訳文、読ませてください。
そうだ、今日、一番言いたかったことは、「翻訳したくてたまらない」っていう気持ちのことだった。これ、大事です。わたしも時々そんなふうに、やる気満々になります。でも、それは、新しい仕事が決まって、これから訳すぞ、という時。つまり、まだ訳し始めてない時ですね。
訳し始めると、ね、ほら、だんだん苦しくなって……。
(M.H.)