「生命誌」の研究者(提唱者)でいらっしゃる中村桂子さんが、毎日新聞に書いたものを集めた書評集です。拙訳『ハーレムの闘う本屋』をとりあげてくださいました。
『生命の灯(ともしび)となる49冊の本』(中村桂子著、青土社、2017年12月刊、1800円) 装幀も素敵です。
毎日新聞に掲載された、もとの書評は読んでいたのですが、こうして他の本と並べられると、自然科学の研究者でいらっしゃる中村さんがとりあげている本の中では、『ハーレム……』は少し毛色が変わっていると言っていいでしょう。
全体が3章に分かれていて、第1章 いのち、第2章 せかい、第3章 こころ、というタイトルがついています。『ハーレム……』は第2章に収められています。
第1章 いのち に最初にとりあげられているのは、
『生命は細部に宿りたまう ── ミクロハビタットの小宇宙』(加藤真著、岩波書店、2010年)。
『ハーレム……』の前の一冊は、
『感染症の世界史 ── 人類と病気の果てしない戦い』(石弘之著、洋泉社、2014年)、
後ろの一冊は、
『未来世代の権利 ── 地球倫理の先覚者、J-Y・クストー』(服部英二編著、藤原書店、2015年)
という並び。
科学と社会と哲学と、そういう視点が感じられるタイトルが並んでいます。まあ、でも、やっぱり『ハーレムの闘う本屋』はちょっと異質な感じがして、でも、逆にこういうラインナップのあいだに入っていることはとても意味のあることにも思えて、うれしい。
以下に、中村さんの文章の一部を抜粋します。
まずは冒頭部分。
「ニューヨークのハーレムにあった黒人に関する本だけを扱う書店の店主、ルイス・ミショーの話である。一九歳に始まり、亡くなるまでを本人や周囲の人の言葉で悉く描き出しているのだが伝記ではない。」(同書、p.104)
最後はこう締めくくられています。
「ニグロから黒人へ。一人の人間の信念、そして本が大きな変化をもたらしたのである。ちょっとワルのところにも惹かれる。「知識こそ力」という発想は、改めて今私たちの中で大事になっていることである。」(同書、p.106)
アメリカではヤングアダルト向けに出版され、日本でもそのつもりで出したものですが、いろいろなところで、様々な取り上げ方をしてもらっていて、訳してよかったな、と思います。
ところで、中村さんのこの本、書評集なのだから、取り上げられている49冊の本が一覧できるリストがどこかについていると思ったのですが、ついていません。目次にもない。うーん、どうしてだろう、不親切な、と思ったのですが、こうなると、どんな本が取り上げられているか、中をめくっていくしかありません。めくっていけば、タイトルから著者、訳者、中村さんの文章へと目が行きます。
そうか、そういう編集方針なのだな、と気づきました。「目次やリストだけながめて読んだ気になるなよ」と戒められたような気がします。
(M.H.)