翻訳者の部屋から

児童書・YA翻訳者、原田勝のブログ

書評集『あるときはぶかぶかの靴を あるときは窮屈な靴をはけ 2』

 西日本新聞を中心に書評を書いていらっしゃる河野聡子さんの翻訳書の書評集『あるときはぶかぶかの靴を あるときは窮屈な靴をはけ 2」を入手。

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 西日本新聞の書評+α を収録した、翻訳書ばかりの書評集で、拙訳『コピーボーイ』をとりあげてくださっています。

 なかなか歯応えのあるラインナップの中で、YAの『コピーボーイ』をとりあげてもらったことがうれしいですね。しかも、作中の一節を、章扉に引用してくださっています。

「地図を読むのは、ぼくが好きなことのひとつだ。自分の体が実際に地球という惑星上のどこかにあり、しかも、指で押さえることのできる紙の地図の一点にあることを知るという考えが好きなのだ。」

 うん、これ、私も好きな言葉です。地図がなかったら、われわれは、今ほど客観的に物事を見られないかもしれないし、でも、国境も戦争もなかったかもしれません。

 また、書評の中でも、主人公ヴィクターの言葉を引用し、そこから「感情を育てる経験について」という書評のタイトルをつけてくださっています。あらすじの紹介だけでなく、こんなふうに、作中の言葉をキーワードにして感じたことを書いてくださると、訳者としてはとてもうれしい。

「丁寧な翻訳もあいまって……」とも書いてくださっていますが、これは原書のテキストが丁寧だからです。原作者のヴィンス・ヴォーターさんの文章は、読者に投げつける文章ではなく、丁寧に感情や情景を説明しようとする文章だと思います。でも、そう感じてくださったのは、やはりうれしい。

 

 この書評集のタイトル、『あるときはぶかぶかの靴を……』というのは、前書きでも触れていらっしゃいますが、「なかなか自分にぴったりの本などないものだ、でも……」ということ。とてもいいタイトルです。

 若いころは、ぶかぶかでも、窮屈でも読めていたのに、最近、ぴったりでないと読むのが苦痛になっていたので、ちょっと気が楽になりました。お店で試し履きしたときはぴったりと思うんだけど、歩き出すと、「あ、きつい」と思うこと、ありますよねえ……。

 

 

  そのほか、とりあげている本は、こちらの裏表紙の写真でどうぞ。

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 トップバッターの『JR』は日本翻訳大賞も受賞していますが、あの分厚さはちょっと二の足を踏みます。木原さんの翻訳は『オーバーストーリー』も気になります。『秋』もそうですね。河野さん、中のコラムで、木原さんの翻訳についてもふれていらっしゃいます。

 

 

(M.H.)